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終章 : 4

 激動の昼休みを終え。  授業もつつがなく受けた冬総は、放課後になり。 (……秋在、どこ行ったんだ?)  ――トイレに行ったわずか数分の間に、秋在を見失っていた。  冬総は教室内をグルリと見回し、秋在の姿を探す。  ……だが、見当たらない。 (鞄……は、置いてあるよな)  秋在の机には、鞄が置いてある。  ということは……まだ、帰ってはいないということ。  いったい、どこに行ってしまったのか。  少し考えた後、冬総はドキリとした胸騒ぎを感じる。 (……まさか、また職員室に……ッ?)  そう思うや否や、冬総は慌てて職員室へ向かおうとした。  ――が。  ――ポケットに入れていたスマホが振動したことにより、その行為を阻止した。 (……メッセージ? 相手は……秋在?)  新着メッセージが届いたことを知らせる、通知。  メッセージの差出人は、秋在だった。  冬総はすぐさまメッセージアプリを起動し、秋在から送られてきた内容を確認する。 『さがして』  その、たった四文字。 (かくれんぼ、ってことか……?)  どうしていきなり、そんなことを始めたのか。  それは本当に、学校でやらなくてはいけないことなのかも、冬総には分からない。  だが、秋在は『さがして』と言っている。  それなら、冬総が返す答えは……一つだけ。 『待ってろよ』  そう送り、冬総はスマホをポケットへとしまい込む。 (さて、と……。どこに向かうか……)  秋在は普段、教室から動かない。  秋在が特段好みそうなところや、思い入れのありそうな場所が……パッとは、思いつかなかった。  それでも、冬総は教室を出る。 (真っ向から考えても分かんねェなら、逆転の発想だ。……秋在は、隠れてるんじゃない。秋在は、俺が来るのを待ってるんだ)  そう思い直し、冬総は廊下を歩く。 (秋在が、俺を待っていてくれそうなところ……ってことに、なるよな)  歩きながら、冬総は窓の外を眺めた。 (……外か?)  隠れるのなら、どこかしらの教室という可能性が高い。  だが、もしも待ってくれているのなら……。 (当たってたら、秋在のことを思い切り抱き締めさせてもらうぞ)  意気揚々と、冬総は歩き出した。 「……早かったね」  蹲っていた秋在が、顔を上げる。  その表情は、ほんのりと驚きを含んでいた。 「他に思いつかなかったからな。ここじゃなかったら『ヒントくれ』って言ってた」  冬総はそう言い、秋在の隣にしゃがみ込む。  秋在が冬総を待っていた、思い入れのある場所。  ――それは。  ――冬総が初めて、秋在との交際を他人に打ち明けた場所。  ――【校舎裏】だった。 「春が近いって言っても、ヤッパリまだ冷えるな。……秋在、寒くないか?」  秋在は、手袋とマフラーだけを装着している。  肩を抱き、距離を縮めると。 「……クラス替えのこと、考えてた」  ほんの少し冷えた体から。  弱々しい声が、紡がれた。

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