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終章 : 9

 秋在の入浴が終わるまで、母親とお茶をすること十数分。 「あら、アキちゃん~」  リビングに、秋在が現れた。  肩にタオルをかけた秋在は、冬総へ近寄る。 「行こう」  そして、ティーカップに触れようとしていた冬総の手を、秋在は引いた。 「あ、秋在……。ちょっと待って、先に片付け――」  せめて、ティーカップをキッチンに下げよう。  そう思った冬総は、正面に座っていた母親へ視線を投げた。  すると。 「んふふ~」  母親が、親指をグッ! と立てて、二人を見送ろうとしている。  その意味はよく分からなかったが、冬総は小さく会釈をした。  秋在の部屋に辿り着くと。  すぐさま秋在は、冬総に抱き着いた。  目に見えて甘えられることに慣れていない冬総は、当然驚く。  が、すぐにその驚きは別の感情で塗りつぶされた。 「……ン? もしかして……シャンプー、変えたのか……?」  日頃から秋在にゾッコンな冬総は、些細な変化にも過敏に反応する。 「今までのも好きだけど、コレも結構いいな。……甘い感じで、可愛い」  感想を述べながら、冬総は秋在の髪を一束だけ掬い、香りを堪能し始めた。  変化に気付いてもらえたことが嬉しいのか、それとも恥ずかしいのか……。  秋在は冬総の胸へ、頭をスリスリと寄せる。  だが、秋在の髪はまだ乾かされていない。 「秋在、秋在……! 俺の服が濡れる……!」  至極当然な指摘に、秋在は顔を上げた。 「――脱げば?」  秋在はそれだけ答え、冬総が着ている上着のジッパーを口で下げ始める。 「いや、それはそうなんだけど……ッ。…………ン? もしかして俺、誘われてるのか……ッ!」 「遅いよ」  冬総の首筋に鼻先をこすりつけて、秋在は囁く。 「お風呂で、後ろ……キレイにしたよ……っ?」 「……ッ!」  それは、あまりにも蠱惑的な囁きだ。  だが、一階のリビングには、秋在の母親がいる。  そのまま襲いかかりたい衝動と、欠片ばかりの理性が戦いを始めた。  ――しかし、その戦いはすぐに終戦を迎える。 「――お母さん、これからママ友とお茶会」 「――秋在、愛してる」  ――淫らな欲望が、圧勝した。  すぐさま気持ちを切り替え、冬総は秋在の唇にキスを落とす。 「ん……っ」  秋在が吐息を漏らすと、冬総はそのまま秋在の体を抱き上げた。 「秋在、マジで可愛い……美味しそう」  ベッドへ秋在を下ろしながら、冬総は囁く。  秋在はキョトンとした後、自分の髪を一束掬い、匂いを嗅ぐ。 「生臭い?」 「いや。……シャンプーの匂いってのもあるけど、秋在の匂いがする」  冬総と秋在は、平日……秋在が学校を休んでも、ほぼ毎日会っている。  そのせいか……ほんの数日、会えないだけで。 「最後にシたの、一週間くらい前だっけ……? できるだけ、ちゃんと優しくするけど……我慢できなくなったら、ごめんな……?」  会えた日の反動は、凄まじかった。

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