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終章 : 10
夜になり。
秋在お手製の晩ご飯が、春晴家の食卓に振る舞われた。
「焼き魚。……刺身に、魚のつみれ汁……? な、何でこんなに魚尽くしなんだ……?」
焼き魚の身をほぐしつつ、冬総は隣に座る秋在を見る。
そのまま、冬総は魚を一口、口へ運んだ。
……言わずもがな、絶品。
食卓テーブルに並ぶ料理を見て、冬総はあることに気付く。
冬総の焼き魚が、一番大きいということに。
(俺が焼き魚好きって憶えててくれた、とか……?)
もう一度、隣に座る秋在へ視線を送った。
秋在はつみれ汁に舌鼓を打ちつつ、冬総の問いに答える。
「昨日、お父さんと釣りに行った」
当然、食事の席には秋在の父親もいた。
冬総はパッと笑みを浮かべて、斜め向かいに座る父親を見つめる。
「ありがとうございます、お義父さん!」
「字は気になるが、まぁ、口に合ったなら良かった」
「コラ、あなた~? 作ったのはアキちゃんなんだから、フユくんの口に合って当然でしょ~?」
「ぬぬ……っ!」
仲睦まじく、両親は談笑をし始めた。
すると唐突に、父親が目を見開く。
「はっ! 春休みに入ってから、やけに秋在が料理をしていると思っていたが……まさか、今日に向けての練習だったのか……!」
「そ、そうなんですか……? ……本当か、秋在?」
「黙秘権」
和やかな空気で、食事会は進む。
夕食を食べ進めながら、冬総はふと、あることに気付く。
「あ、そうだ。……秋在。秋有君の分は?」
「供えた」
弟の仏壇が置いてある部屋に、秋在は一瞬だけ視線を送る。
「秋有も、焼き魚が好きなんだ」
「そうなのか? ……じゃあ、喜んでるな。焼き魚好きな俺が保証する」
「うん。そうだったら、嬉しいな」
見つめ合い、微笑み合う。
すると、父親がおもむろに……箸を、テーブルの上へ置いた。
「……あなた? いきなり目頭なんて押さえて、どうかしたのかしら?」
「年のせい、かもしれん。……最近、涙腺がな……」
冬総はあまり、母親と共に食事をしない。
それは、母親が冬総を【息子】として見てくれるようになってからも、変わらなかった。
母親の仕事は、時間帯がバラバラ。
なかなか、冬総と時間が合わないのだ。
そのせいか……こうして、家族で食事をしていると。
冬総の胸は、ポカポカと温かくなった。
思わず冬総が口角を緩めると、正面に座る母親が笑う。
「ふふっ。……ねぇ、フユくん」
「あ、はい。なんスか?」
「進級しても、アキちゃんのこと……よろしくね?」
母親はそう言い、肩を揺らす。
「アキちゃんったら、きっとフユくんがいなかったら、出席日数足りてなかったもの」
「なに……っ? 秋在、今の話は本当か」
不意に。
食卓に、険悪な雰囲気が流れ始める。
だが、それはすぐに掻き消された。
「お父さん、お酒注ぐよ」
「ぬ、頼む。……いや、秋在。そうじゃなくて――」
「このつみれ、一番大きいからお父さんにあげる」
「秋在……っ!」
またもや、父親が目頭を押さえ始めたのだから。
(秋在も、両親の前だったら年相応の子供って感じだな)
どことなく、秋在の態度が新鮮で。
そんな秋在を『可愛い』と思いつつも、ほっこりと和み。
冬総は、微笑ましい気持ちになった。
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