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終章 : 11

 部屋に戻り、冬総は秋在の手をとる。 「いきなり手を向けてくるから、なにかと思ったぞ」  そう言いながら、冬総は秋在の左手薬指に、指輪をはめた。  この指輪は、冬総からしかはめることを許されない。  そして、外すという行為すらも、冬総じゃないと許されないのだ。  秋在は薬指にはめられた指輪を見た後、冬総から顔を背けた。  そして、一つの箱を取り出し始める。 「……その箱、なにが入ってるんだ?」  ビックリするほど大きいというわけでもないが、小さくもない。  そんな箱を取り出して、秋在は答える。 「プラネタリウム」 「あぁ……部屋の中でも見られるやつか?」  秋在は一度だけ頷き、箱の中から機械を取り出した。  それは、部屋の中でも簡易的なプラネタリウムを体験できる機械だ。 「昨日、お父さんとお出掛けした。『なにか欲しい物はあるか』って言われたら、ボクはいつも『なにもない』って言ってる。ボクの欲しい物、お店に売ってないから」 「へぇ? 例えば?」 「蓬莱(ほうらい)(たま)()」 「お、おぉ……?」  コンセントに繋いだ後、秋在は部屋の電気を消す。 「でも、コレを見たとき……フユフサの顔が、思い浮かんだ」  暗くなった部屋で、秋在はそっと……機械にスイッチを入れた。 「一緒に見たかった。フユフサと、二人で」  秋在の部屋に、星が煌めく。  たとえそれが人工的に作られた輝きだったとしても、冬総は素直に。  ――『綺麗だな』と。  ……そう、思った。 「フユフサに問題。人間が初めて手に入れた魔術はなに?」 「え? ……う、うーん……錬金術、とか……そういうモンか?」 「正解は【視覚】」  薄明りに照らされた秋在は、笑う。 「【視覚】は、人間が手に入れた最初の魔術だよ」 「それは、秋在の自論か?」 「どうだろうね」  そう言い、秋在は天井を眺める冬総の手をとった。  そのまま、ベッドへと誘導する。 「流れ星とか、出てくるのかな」  ベッドへ横たわる秋在が、ポツリと呟いた。  そんな秋在を横目で見ながら、冬総は笑みを浮かべる。 「もしも流れたら、秋在はなにをお願いするんだ?」  その答えは、すぐに返された。 「――同じクラスになれますように」  指輪をはめた左手が、隣で寝そべる冬総の手を握る。 「もしかしたら、ただ一緒に見たかっただけじゃないのかも。……なにかに、縋りたかったのかな」 「秋在……」 「春休み中、ずっと考えてた」  意外と。  秋在は、繊細なのかもしれない。  季龍が何の気なしに放った言葉を、何日もの間……秋在はずっと、引きずっていたのだから。  そんな秋在が、いじらしくて。  ――愛おしかったから。 「クラスが別々になったら……それこそ、職員室に殴り込みでもするか?」  握られた手に、力を籠める。  秋在は驚いたように、冬総へ視線を向けた。 「……一緒に?」 「正直なところ、秋在を危険な目に遭わせたくないけど……。……そうだな、一緒に行こうか」  冬総は、小さく微笑む。  その笑みを見て、秋在は……。 「――うん」  無邪気に、微笑んだ。

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