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終章 : 12
誰かに作られた星を、秋在と冬総は眺め続ける。
「フユフサ。【レゾンデートル】って言葉、知ってる?」
「今日はなぞなぞクイズが多い日なんだな」
「いやだった?」
「俺が秋在を嫌がるワケないだろ? ……ちょっと考えるから、待ってくれ」
そう答え、冬総は名前も知らない星座を見上げた。
「聞き覚え、無い気がする……。それ、授業で習ったか?」
「習ってない」
「だよな……」
ころん、と。
秋在は隣に寝転ぶ冬総へ、向き直った。
「ヒントは……ボクにとっての、フユフサ。そして……フユフサにとっての、ボクだよ」
「いい言葉だな」
「答え、分かってないでしょ」
「分かってないけど、きっと……秋在が俺を口説いてるんだろうなって、思ったからさ」
「ばか」
悪態を吐くも、秋在は笑っている。
「じゃあ、もう一つ。……【シーイング】って、知ってる?」
「それも、授業で習ってないよな? 聞いたことあるような、ないような……?」
冬総も、秋在が寝転がる方へ視線を向けた。
「もしかしてその言葉も、俺と秋在のことか?」
「どうだろうね」
繋いでいない、秋在の右手が。
冬総の平坦な胸を、そっと撫でた。
「もしも、フユフサの肉を破いて……この内側が、澄み切った夜空だったら。その中で、フワフワと浮いている星が、フユフサの心なら……きっと、フユフサにも当てはまるよ」
「俺にはちょっと、難しいな……」
「だね」
「秋在の中には、その……【シーイング】ってのはあるのか?」
「【シーイング】は物じゃないよ」
ますます、分からない。
きっと冬総は、秋在以外からその言葉を聴くことがないだろう。
だからと言って『どうでもいい』とは、切り捨てない。
なぜなら……。
「――だけど、ボクの好きな言葉なんだ」
秋在がそう言って、笑ったのだから。
ならば、冬総にとって……意味の分からないそれらの言葉も、大切なものだった。
「じゃあ、ちゃんと憶えるよ」
「ボクは教えてあげないよ」
「ちゃんとネットで調べる。……秋在の好きなものなら、俺はなんでも知りたいんだよ」
繋いだ手に、冬総はキスを落とす。
「好きだよ、秋在。……俺、あんまり頭は良くないけど……だけど、絶対に秋在を幸せにする。公務員並みに安定した就職先見つける」
「唐突だね。なら、ボクは公務員になる」
「俺の恋人が格好良すぎる……ッ」
「ボクの恋人もカッコいいよ」
くすぐったそうに、秋在は笑った。
そして……どちらからともなく、顔を寄せる。
二人の影が、一つになったところを。
目撃していたのは……星の輝きだけだった。
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