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エピローグ【絶対的ハッピーエンド】 1
二年生になり。
冬総は、春の終わりを迎えようとしていた。
昨日は……秋在が【なくして】【落とした】と言う人魚の骨。
それを、探してみたのだが。
そんなもの……当然、見つからなかった。
そのまま秋在は冬総の家に泊まり、夜を越えて。
冬総が目覚めたとき……秋在は、いなくなっていたのだ。
そして昼休みになっても、秋在は姿を現さなかった。
「ねぇ、夏形くん? お弁当も食べないで、なに調べてるの?」
女子生徒に声をかけられた冬総は、顔を上げない。
指摘された通り……冬総は、スマホを眺めている。
「あー……俺も、分かんねェ」
「なにそれぇ? 変なの~」
「変……そうかもな」
ほんの、一年前。
冬総は誰かかから【変だ】と思われることを、恐れていた。
普通を好み、稀有だと思われることを厭い、世間に溶け込む。
それが、冬総にとっての人生だった。
それを変えたのは……あの日の、放課後。
――春晴秋在との、会話。
冬総は、へらりと笑みを浮かべる。
「調べても、答えなんてないのかもしんねェわ」
「ほんっと、夏形くんって変わったよね? 一年生の頃はもうちょっと分かりやすい感じだったのに、今は春晴くんに似てきたって感じ」
「サンキュ。俺にとっては最上級の褒め言葉だ」
女子生徒と会話をしていると、季龍が寄ってきた。
「いや~、購買のパン売り切れるかと思ったぜ~。……ん? ま~た冬総は地図アプリ眺めてんのか?」
「おかえり、四川。……さっきまでは閉じてたぞ」
パンを三つほど購入してきた四川は、冬総の隣の席へ腰を落とす。
「毎度毎度、どこ調べてるんだよ~?」
「別に、調べてるワケじゃねェって。見てるだけって言ったろ?」
それは、昨日。
ホームルーム前から、季龍が気にしていたことだった。
冬総はよく、スマホの画面に地図アプリを表示している。
それがどこを表示しているのか、季龍を含めてクラスの誰も知らない。
知っているのは、冬総本人だけ。
「ふ~ん?」
季龍はパンを咥えながら、冬総のスマホを覗き込む。
そして、眉を寄せた。
「……ん~? これ、学校じゃね?」
「そうだな。学校に来たらしい」
「『来た』?」
パンを頬張り、季龍は考える。
そして……一つの答えを導き出した。
「冬総……この地図って、もしかして――」
そう言うと、同時に。
――ガラッ、と。
教室の扉が、開け放たれる。
冬総は瞬時に立ち上がり、笑みを浮かべた。
「秋在、おはよっ!」
素早く反応した冬総を見て。
季龍は、確信してしまった。
……それと、同時に。
「……冬総って、どんどん変態になってきたな~……」
そんなことを、一人虚しく……呟いた。
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