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エピローグ : 2 ~了~

 登校してきた秋在は、冬総を見る。  そしてすぐに、廊下へと戻ってしまった。 「あ、あれ……? 秋在?」  冬総はすぐさま、秋在を追いかける。  その様子を眺めてはいても、クラスの誰一人止めない。  ――あぁ、また始まったなぁ。  この程度の感想を、抱くだけだ。  クラスメイトからの印象は全く気にせず、冬総は廊下へと出る。  キョロキョロと辺りを見回すも、秋在が見当たらない。 「秋在?」  もしかしたら、帰ってしまったのかもしれない。  そう思った冬総は、すぐさま地図アプリを確認し始めた。  ――その瞬間。 「――どんっ」  秋在が。  背後から、冬総に抱き着いた。  驚いた冬総だったが、声には出さない。  ゆっくりと振り返り、そして……。 「……良かった」  小さく、笑う。  冬総の笑顔を見て、秋在もニッコリと笑った。  こんな風に……秋在が満面の笑みを浮かべるなんて、珍しい。 「なにか、いいことでもあったのか?」  背後から抱き着く秋在を振り返ったまま、冬総は訊ねる。  すると、秋在は素直に答えた。 「昨日、流れ星見た」  ふと、昨晩の出来事を思い返す。  寝る前に……秋在は確かに、窓の外を眺めていた。  そのときはなにも言っていなかったが、きっと……秋在は一人、流れ星を見つけていたのだろう。 「だから、今日は絶対見つかるよ」 「『見つかる』って……人魚の骨か?」 「どうだろう。……もっと、凄いものかもしれないね」  謎掛けのように答える秋在は、変わらず笑顔だ。  こうして無邪気にはしゃぐ秋在は、貴重だった。 「今日の秋在、一段と可愛いな」 「……?」 「しまった、声に出ちまってたか……ッ!」 「変なの」  小首を傾げながら、秋在は呟く。  冬総は、もう確認する必要性のなくなったスマホを、ポケットへとしまい込んだ。  そうしてもう一度、秋在へ笑みを向ける。 「じゃあ、放課後……探しに行こうか」  秋在が『今すぐ』と言うのなら、冬総は当然ついて行く。  だが、秋在が『夜がいい』と言うのなら……それでも良かった。  ――あの、放課後。  ――秋在と言葉を交わした、あの日。  ――それから……冬総はずっと、秋在にゾッコンなのだから。  微笑む冬総を見上げて、秋在は眉尻を下げる。 「なにが見つかるか、分からないよ? もしかしたら、流れ星はボクらの願いを叶えてくれないかもしれない」 「ならいっそ、流れ星でも探しに行ってみるってのはどうだ?」  秋在は、目を丸くした。 「流れ星を? 見つけたら、どうするの?」 「そうだな……どっかに括りつけるか? 秋在の鞄でも、俺の鞄でも……それは、どこでもいいけどさ」 「……面白いこと言うんだね、フユフサは」 「秋在が喜んでくれたなら、俺は嬉しいよ。こう見えて、俺は秋在にゾッコンだからな」  後ろから抱き着いたまま、秋在は悩む。  今日の秋在は、やけに表情を変える。  恋人が喜怒哀楽を表現しているのだから、冬総にとって嬉しいことこの上なかった。  そのことに、秋在が気付いたのかは……分からない。  ……だが。 「そっか。……ねぇ、フユフサ? 昨日の景品、今選んでいい?」 「昨日の……? あ、浜辺まで競争したやつのことか?」 「うん」  秋在は言葉を区切り、冬総を見上げ続ける。 「今日こそ、人魚の骨を見つけるんだ。でも、その前に……コンビニで、パンを買ってほしい」 「そんなの、お安い御用だっての」  見つめ合って、放課後の約束を交わす。  ……これからも、変わっていきながら……きっと、変わらない。  そんな、二人の未来に向かって。  ――二人はもう一度、笑い合った。 エピローグ【絶対的ハッピーエンド】 了

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