178 / 182

(1 : 2)

 ――ズドンッ!  まるで飛びつくように、冬総は秋在へ抱き着いた。 「わぁ……っ」  冬総の突進により、秋在は反動でベッドに押し倒される。  驚いたような、感嘆じみたような声を秋在は上げた。  そんな秋在を抱き締めたまま、冬総は叫んだ。 「もう一回呼んでくれッ!」 「フユちゃん」 「もう一回ッ!」 「フユちゃん。……耳、うるさい」 「ハッ! ご、ごめんッ!」  強く抱き締めていた腕の力を緩め、ハッとした様子で冬総は秋在から離れる。  そしてすぐさまベッドの上で正座をし、冬総はポケットの中からスマホを取り出した。 「秋在、秋在! 今度はここに向かって『フユちゃん好き』って言ってくれないか!」  【ここ】とは、スマホのカメラだ。  冬総は即座に録画の体勢に入り、秋在へカメラを向けた。  秋在は特段驚いた様子も、ましてや恥じらった様子も見せない。 「フユちゃん、大好き」 「俺もだッ!」  録画を終えた冬総は、瞬時にスマホを抱き締めた。 「あぁ……ッ、幸せだ……ッ!」  しばらく冬総が幸福を噛み締めながらスマホを抱き締めていると、不意に……。 「普段のボクよりも、お母さんを模倣したボクの方がいいんだ」  秋在が、ぷくっと頬を膨らませた。  唇を尖らせた秋在を見て、冬総は慌ててスマホをポケットへとしまい込む。 「な……ッ! 違う! そんなことはないぞッ! 俺はどんな秋在も愛してるし、秋在が俺のことをなんて呼んでもこの気持ちは変わらないッ!」  すぐに、冬総は秋在を抱き締めようとした。  ……しかし。 「――ナツナリくんなんて、嫌い」  秋在のその一言で。  ――ズドンッ!  冬総は先ほどと同じような音を立てて、ベッドの上に倒れこんでしまった。 「――カハッ!」  そう呻き、冬総はベッドにうつ伏せ状態となる。 「秋在に嫌われたら、俺は、死ぬ……」  比喩や過剰表現ではなく、冬総にとっては本気だ。  うつ伏せで力なく倒れている冬総の上へ、秋在が即座に跨る。  秋在の体重を感じながら、冬総は呻いた。 「秋在に嫌われた俺は、秋在の重みで圧死するしかない。……だけど、秋在が軽すぎて死ねそうにないぞ。秋在、好きだ」 「ボクはナツナリくん嫌い」 「死ぬ」  ウジウジし始めた冬総の上で、秋在は前後に揺れる。  そのまま、前に倒れて冬総の耳元へ顔を寄せた。 「ナツナリくんは借りを返さないで死ぬような薄情さんなんだね。ふぅん」 「ッ! そんなことは断じてないッ!」 「じゃあ、頑張って生きなくちゃね」  秋在は上に乗ったまま、普段通り抑揚のない声で告げる。 「貸しは、そう簡単に返させないから」 「……それはつまり、俺に『死なないで』って言ってるのか?」 「ふぅん。ナツナリくんはボクを置いて死んじゃうんだ」 「それはないッ! 同じタイミングで墓に入るつもりだッ!」  ギャンと吠える冬総に跨ったまま、秋在は黙り込む。  そして……。 「――うおッ!」  不意を衝くように、秋在は冬総の耳朶を甘噛みした。

ともだちにシェアしよう!