179 / 182
(1 : 3 *微)
モグモグと。
秋在は、冬総の耳たぶをピアスごと噛んでいる。
「あ、あの? 秋在、さん?」
「あむあむ」
「く……ッ! やめてくれ、秋在……ッ! 唾液の音がダイレクトに鼓膜を振動させて、なんかヤバい……ッ!」
いきなりなにが起こったのか分からず、冬総はただひたすらに動揺した。
そうすると、秋在が囁く。
「ボク、ナツナリくんのお願いを四回聞いたよね。だから、ボクも四回お願いする権利がある。……そうだよね」
「あ、あぁ。そう、なるな?」
名前を三回呼ばせ、一回だけ録画のお願いをした。計、四回だ。
しかし、いったいなにを頼まれるのか。冬総は頭をフル回転させて……。
――まさか。
冬総の頬に、一筋の汗が流れる。
「――逆転願望か……ッ!」
「――ないよ」
唯一の不安を、秋在はコンマレベルの速さで否定した。
冬総は無意識に強張らせていた体から力を抜き、ホッとひと安心する。
「そ、そっか。なら、あとは大丈夫だ」
「じゃあ、ボクの前でひとりエッチして」
「あぁ、モチロ――なんだって?」
必死に、冬総は上に乗る秋在を見上げようとした。
「それはつまり、抜けと? 秋在を目の前にして、秋在に触らず、一人で抜けってことか?」
「ウン。そして、二個目のお願いは【その様子を録画させて】だよ」
「嘘だろッ! そんなの撮ってどうするんだよッ!」
「ナツナリくんは同じ状況になったら、録画したものをどう使う?」
「たぶん毎日見る」
「同じだね」
冬総は眉を吊り上げて、勢いよく反論し始める。
「――俺だって秋在のソロプレイ動画を撮ったことがないのにかッ!」
しかし、秋在の態度は素っ気ない。
「ボクが降りたらすぐに始めてね。これは三個目のお願いじゃなくて、一個目のお願いの付属品だよ」
「く……ッ!」
秋在はすぐさま冬総から降り、スマホを用意し始めた。
(マジか? マジなのか……!)
恋人に撮影されながら、自慰行為を始める。
しかも、恋人の家――恋人の部屋で、だ。
起き上がった冬総は、そっと秋在を見つめた。
「秋在、秋在。せめて、秋在に触りたい。どこでもいいから、秋在に触らせてくれないか?」
「それじゃあひとりエッチじゃないから、ダメ」
「ぐ……ッ!」
秋在の小さな手が、冬総のベルトに触れる。
「――できるよね、フユちゃん?」
「――できる」
ベルトを引き抜かれた冬総は、反射的に頷いてしまう。
後悔先に立たずとは、まさにこのこと。
男に二言はないというのも、まさにこのことだった。
「……見ても、別に楽しくないぞ」
「それを決めるのはボクだよ」
「今日の秋在、やけに男前だな。愛してるよ」
「ボクはまだ嫌いだけどね」
「萎えるようなこと言わないでくれ……」
ズボンを寛げ、冬総は下着から萎えている逸物を取り出す。
(とんだ羞恥プレイだな……)
そんなことを考えながら、冬総はため息を吐いた。
ともだちにシェアしよう!