180 / 182

(1 : 4 *)

 そっと、冬総は自分の逸物を握った。  自慰行為をするなんて、いったいいつ振りか……。  秋在と付き合ってからは、そういった意味で困ったことはない。 (ほぼ毎日ヤッてたら、一人でする必要なんかないもんな)  再度、冬総はため息を吐く。  しかし、ここまできたのならば、もう引くことは許されない。  冬総は機械的な動きで、自身の逸物を上下に擦り始める。  ……しかし、一向に勃つ気配がない。  秋在はスマホを向けたまま、ジッと冬総の痴態を眺めていた。 (一人で、って……どう、するんだっけ)  そっと、秋在のことを見つめてみる。 (俺のこんな姿を真剣に見てる秋在は可愛いが、この状況はあんまり興奮しないな……)  冬総には特段、特殊な性的嗜好がない。  恋人に痴態を見られて興奮するような性癖を、持ち合わせていないのだ。 (目を閉じて、秋在を抱いてるときのことでも思い出せば――)  すぐに、冬総は自分の考えを否定する。 (――目の前に本物の秋在がいるのに、妄想に逃げるのか?)  それは、秋在を愛する自分の生き様に反する行為だ。  冬総にはできないし、したくもなかった。  ……となると、やはり秋在のことを見つめながら手を動かすしかない。  冬総は真剣な顔つきで、秋在のことを見つめた。 「……?」  秋在からすると、カメラに目線を向けられたような状況だ。困惑して当然だろう。  秋在が一瞬だけ眉を動かしたが、冬総はそんな秋在をジッと見つめていた。  そこでようやく、秋在は見られているのは【カメラ】ではなく【自分】だと気付く。  パチパチ、と。驚いた秋在は数回、瞳を瞬かせた。 「……秋在、かわい……ッ」  低く呻き、冬総は手を動かす。  すると、少しずつではあるが冬総の逸物が熱を持ち始めた。 「は、ッ。秋在に見られながらってのは、ちょっと恥ずいけど……秋在を見ながら抜くのは、贅沢かも……ッ」  ピクッ、と。  スマホを持つ秋在の指が、一瞬だけ跳ねる。 「今、指……跳ねた? ……照れてる秋在も、可愛いよ……ッ」  撮影されているのは、自分。  観察されているのも、自分のはず。  それでも冬総は、カメラのことがあまり気にならなくなっていた。  ――本気で、秋在のことしか見ていないのだ。 「眉、寄ってるぞ。俺に言い当てられて、不満? それとも、恥ずかしい?」 「…………」 「喋んないのは、カメラに秋在の音が入るからか? ……じゃあ、俺が実況するよ。秋在は、黙ったままでいいから」  ぐちっ、と。淫猥な音が、冬総から鳴り始める。 「秋在、可愛い。耳、ちょっと赤くなってるな。じゃあ、怒ってるんじゃない。恥ずかしいんだ。……なんでだろうな。どう考えても、恥ずかしいことしてるのは俺なんだけど……」 「……っ」 「ハハッ。今、なにか反論しようとしただろ? ほんっと、マジで秋在可愛い……ッ」  冬総のこげ茶色の瞳が、しっかりと秋在を見つめていた。 「あー……なんか、最初は絶対無理だって思ってたんだけど、意外とできそう……ッ。……これ、普通に出していいのか? ……って、特殊な出し方とか、知らねェけど……」  ぐちぐちと、冬総が手を動かすたびに、先走りの液が逸物に擦り付けられる音が鳴る。 「出る、かも……ッ。でも、なんか……秋在のナカに、出したかったな……。もったいねェ……ッ」 「っ!」  独り言のように呟きながらも、冬総はずっと秋在のことを眺めていた。  だからこそ、冬総の『もったいない』発言に、秋在は動揺してしまったのだ。 「秋在、もう――」  冬総がそう、呟くと同時に。 「――フユフサ……っ」  秋在が、スマホを床に放った。  冬総の『もったいない』発言に、秋在が動揺した理由。  ……それは。  ――秋在自身も、そう思ったからだろう。

ともだちにシェアしよう!