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求め合う日曜日 -1

 耳元で鳴るアラームを手探りで止めて、怠い体をそろりと起こす。  隣の司が起きた様子のないことにホッとしたり申し訳なかったり、複雑な気分だ。  昨日は結局、求めるまま、求められるままに互いを貪り合って、せっかくの晩ご飯に口も付けないまま、二人で眠りに落ちてしまった。  随分と疲れさせたらしい司は、身体中に跡を残して、あどけない顔で眠っている。  そのギャップは、昨日あれだけシたにも関わらず、欲を掻き立ててくるけれど。  今からバイトに行く身としては、起こさないように髪をサラリと撫でてやるにとどめておいて。  そっとベッドを抜け出して、こっそりと朝食を済ませて身支度をしたら、ルーズリーフを一枚抜き取って、走り書きを残す。  んむんむと夢の中で何かを言っているらしい司の姿を愛おしく見つめて、 「行ってくんね」  そっと頬に唇を落として玄関へ。  見送りはないけれど、幸せの度合いで言えば昨日と変わらない、なんて惚気て浮かれながら、そっと鍵を開けてそっとドアを開ける。  三連休の中日も、いい天気だ。  パタン、と最小限の音でドアを閉めて、音を立てないように慎重に鍵をかけて。 「ぅしっ」  小さく気合いを入れたら、やけに節々の痛む体を無理矢理動かしてエレベーターに向かった。 *****  陽の光に顔をくすぐられて、もぞもぞと体の向きを変えて。  無意識に伸ばした手が、冷えたシーツに触れて、パチリと目が開いた。 「そうま?」  呼んでも返らない返事と、電気のついていない部屋の中。 「そうま」  ぽつりと響いた自分の声に、どきりと心臓が鳴る。 「そうま」  無性に恐くなって、布団を被ったまま体を起こして、もう一度。どこへともなく声を放ったけれど。 「そうまっ」  やっぱり返事はなくて。  置いてかれた? また? 違う。颯真はそんなことしない。でも、じゃあなんで今オレは一人なの。  ぐるぐると嫌なループが回り始めて、制御できずに。  無意識にカタカタ震える自分を、そっと抱こうとして。 「ぁ」  身体中に散らばる紅い印に、気付いた途端にホッと力が抜けて。ようやく、腰の辺りが重怠いことに気付いた。  よれよれとベッドを降りたら、テーブルの上に紙が載せられていて。気だるい腕を伸ばして手に取れば、 『今日は3時前には帰れると思う。オレは昼は食べて帰るから、司もちゃんとごはん食べなよ』  相変わらずのお母さんの小言が、顔に似合わない癖のある字で書かれていた。 「そっか、バイトか……」  オレもバイトしようかなぁ、なんて小さく呟いたら、せっかく降りたばかりのベッドに逆戻りして。  思った以上に怠い体が、沈んだベッドの中で颯真の匂いに包まれた途端に、ずるずると睡魔に引きずり込まれた。 「そうま……」  淋しい、だなんて。  呟いたことには、自分でも気付いていなかった。 「さ……つかさ」  ペチペチと、頬を叩かれて不満の声を上げながら目を開けたら、そこに颯真の顔のドアップ。 「ッ!?」 「わっ、あぶねー」  びっくりして飛び起きるのを、上手く躱した颯真が、おはようと苦笑う。 「もしかして、ずっと寝てた?」 「……かも。ごめん、今何時?」 「3時半。お昼は?」 「……食べてない」 「……もう」  やれやれ、と呆れた溜め息を吐いた颯真が、ぽすん、とベッドに腰掛ける。 「ちゃんと食べなきゃダメじゃん」 「……ごめん、なさい」 「ホントにもう」  しょぼんと落ち込んだ頭を、わしゃわしゃと撫でた颯真が、ぽんぽんと頭を軽く叩いた後で。 「着替えて、司」 「ぇ?」 「お茶でもしにいこう」 「そうま?」 「1日中家の中なんて、もったいないよ。今日、良い天気だから」  な? と。  覗き込んできた優しい瞳に、うん、と頷いて。  ベッドを降りようとしてよろめいた体を、慌てて支えてくれた颯真が 「ごめん、昨日、むちゃくちゃして」  そんな風に謝るのが恥ずかしくて。  俯いたままぎこちなく首を横に振る。 「おれ、も……して欲しかった、から……」  顔の熱さを自覚しているからこそ、俯いたままそう言ったのに。颯真の手が、そっと頬に添えられるから、仕方なく顔を上げた。 「司、顔真っ赤。かわい」 「うるさいな」  幸せそうに笑った颯真が、優しくて柔らかいキスを唇にくれて。 「これ以上に進まないうちに、着替えて、司。昨日は晩ご飯も食べてないんだから、さすがにお腹空いてるでしょ?」 「ぁ……ホントだ」 「----全くもう」  今頃気付いて、ぺたんこになったお腹を撫でる。 「晩ご飯の時間、遅くするから、なんか軽く食べよう」 「ん」  くしゃくしゃと優しく髪を撫でられて、うっとり目を閉じていたのに。  そっと手が離れたから、不満に思ってうっすらと目を開いた先。  困った顔した颯真がいて。  きょとんと首を傾げたら、颯真は、困った顔のまま苦笑いした。 「あんま煽んないで」 「ぇ?」 「かわいすぎるから」 「っ」  ぽりぽりと気まずそうに頬を掻いた颯真が呟いて、ぐぃ、と抱き寄せられる。 「だめだ、なんか。すげぇ好き」 「っ」 「どうしよ」  耳元で困惑気味に笑う声が囁くのが、恥ずかしくて嬉しくて。  ぎゅう、と颯真にしがみついたら、耳元に囁き返してやった。 「おれも……いっしょ」 「----そか」  ぎゅう、と。抱き締め返してくれる腕の力強さと。  合わせた胸から響いてくる少し早い心音に煽られて、自分までドキドキする。 「あぁ……でも、ホントだめ。さすがに司は、なんか食べなきゃ」 「……ん」  そだね、と。  名残惜しく呟いて、けれど離れがたくてもぞもぞしてたら、司、と優しい声が呼んでくれて。  そっと、顔を上げた先。 「--------後で、ね」 「--------っ」  昨日と同じ顔した颯真が、綺麗な顔で笑っていた。 「颯真ってさ」 「んー?」 「意外と甘いの好きだよね?」 「んー……うん、実はね。……ここもホントは……結構前から目ぇつけてたんだ」  照れ臭そうに笑った颯真が連れてきてくれたのは、雑誌で見たというケーキ屋さんだ。イートインも出来るというそこは、イートイン限定のイチゴクリームなんとかが人気らしい。  颯真の前にはそれが置いてあって、背の高いグラスに盛られていたそれは、もう半分近く減っている。 「司も食べる?」 「オレ、これでいい」 「おいしいのに」  そんな風に呟きながらも、食べる手が止まらないのが、おかしくて可愛い。  こういうのがギャップ萌えっていうのかな、なんて思いながら、不意に胸をチクリと刺すのは、きっと颯真はモテてたんだろうな、なんていうつまらない嫉妬だ。  自分用に頼んだチーズケーキをもそもそつつきながら、嬉しそうにパクついている姿を、ちらりと盗み見る。 「ん? やっぱ欲しい?」 「んーん。おいしそーに食べるなーって」 「美味しいよって。食べる?」 「ううん」  にこーっと。いつものシュッとしたイケメン顔とはまた違う、少し幼く見えるその笑顔にドギマギするのに。  ふと気付いてそっと左右のテーブルに目をやれば、女の子同士で盛り上がっていたはずの席が静かになって、なんだかうっとりした顔で、颯真に熱い視線を送っていたり。  前に彼氏が座ってる手前、あんまり大っぴらには見れないけど、気になってチラチラ見ちゃうオンナノコがいたりして。  ぐるり、とお腹の中で黒い何かが渦を巻く。 (………………オレの、なのに……)  この感情は、いったい何なんだろう。  昨日から、なんだか少しおかしい。  自分でも戸惑うくらいに変なことは分かっているのに。  ぐるぐるした思いを、止められなくて。 「司?」 「っぇ?」 「どしたの、チーズケーキ、美味しくなかった?」 「ぇ? ……ぁ……ぅ、うん。おいしい」 「そう?」  イライラと睨み付けたチーズケーキを、美味しくないのかと心配する颯真に、ぎこちなく笑って首を振って。 「颯真……食べる?」 「ん?」 「これ」 「へ?」 「はい」 「………………つかさ?」  訳が分からなくなっていたのかもしれない。  颯真はオレのだ、みたいな。独占欲なのか、それとも虚勢じみた自慢だったのか。  気付けば、1口大に切ったチーズケーキを、颯真に差し出していて。 「----------ッ」  戸惑った声で名前を呼ばれて、とんでもなく驚いた自分自身に。  呆れながらも恥ずかしくて、泣き出したいくらいに、苦しくなったのに。 「……ありがと」  にこりと笑って、颯真は。  差し出したまま震えていたフォークから、パクリとケーキを食べてくれる。 「あ、やっぱそれも美味しいねー」 「ぁ……ぁ、うん」  もぐもぐと笑った颯真が、何事もなかった顔してそう言ってくれるのが、居たたまれなくて。  涙と一緒に残りのケーキを口に放り込む。  周りの視線を伺う余裕はなかったけれど。  ほんのりザワめいている気がして、居心地の悪さにもぞもぞした。 「----司」 「ぇ?」 「行こっか」 「……うん」  俯いたまま最後の1口を放り込んで、水を呷ったタイミングで。  いつの間にか食べ終えていたらしい颯真が、いつもの笑顔でそう言ってくれて。  情けなくてもそもそ頷いたら、ぽふ、と。  いつもみたいに頭を撫でられて驚く。 「行こ」  風みたいに一瞬のその手の平に、なんとか心が落ち着いて。  何事もなかった顔して立ち上がったら、周りの視線に気付かないフリでレジに向かう。  その前には、あの時と同じ背中があって。  守られてる実感に、嬉しくなるのと同時に。  些細なことに嫉妬して取り乱した自分の情けなさを、悔やむしかなかった。 ***** 『颯真……食べる?』  はい、と。  差し出してきた司は、何かに追い詰められた目をしていて。  いつもは恥ずかしがってこんなことしてくれないから、ついつい戸惑って名前を呼んだら。  ハッとしたみたいに肩を震わせた司の目が、恥ずかしさとかやりきれなさとか、そんな哀しい想いに揺れていたから。  嬉しかったのに戸惑ったお詫びも込めて、おかしなことじゃないみたいな顔して、その手からケーキを食べた。  そんなオレを見て、酷く安心したみたいに目を和らげたのに、悔しくて情けないみたいに口を引き結んだ後に俯いて。何かを堪えるみたいにパクパクとケーキを食べ始めた姿が。  なんだか、こっちまで苦しくなるほどに動揺していて、切なくなった。 (どうしたんだろ……)  今日もオレが帰るまで寝ていたみたいだし。  昨日だって、帰ったら淋しくて泣いた後だったし。  何かあったのかな、なんて思いながら。  興味津々な顔してこっちをチラチラ見てくる野次馬な視線を、睨み付けて叩き落とす。  悪いことなんて何もしてないのに、小さく縮こまってしょんぼりしてる司の頭を、ぽふ、と叩いてやってから店を出た。 *****  どうしてあんなことをしてしまったんだろうと、落ち込んで。ろくに顔も上げられないまま、颯真の半歩後ろをトボトボ歩く。  前を歩く颯真の顔は見えないし、むしろ恐くて見られないのだけれど、相変わらず優しいままの背中が、今は少しだけ苦しい。  ただでさえ男同士でケーキ屋さんだなんて、悪目立ちも甚だしいのに、あんなこと。 (……颯真も、困った顔してた)  いつも優しい颯真が一瞬見せた、戸惑いの表情が今も胸に痛くて。 「…………ごめんね、颯真」 「ん?」 「……ごめん」  泣くのを堪える声で小さく呟いたら、颯真が急に立ち止まって、背中に顔をぶつけてしまう。 「わっ!?」 「ちょっとこっち」 「ぇ?」  ぶつけた痛みで涙目になって滲んだ視界の中で、少し怒ったみたいな顔に見える颯真に、ぐいぐい腕を引かれて、路地裏みたいな所に連れて行かれて、本当に泣きたくなった。 「ごめんなさい」  連れ込まれた場所で、颯真の顔も見ないままにそう呟いたら、わしわしと頭を撫でた優しい手の平が頬を挟んで、無理矢理顔を上げさせられる。 「なんで謝んの?」 「だって……」 「だってじゃないよ。どしたの司。今日……ってか、昨日から変だよ」 「変……?」 「なんかあったの? 三連休、ホントは一緒に過ごしたくなかった?」 「ちがっ」 「だったらなんで」 「なんでって……」  淋しい顔した颯真が、じっとオレを見ていて。  何か言わなきゃと思いながら、何を言えば良いのかも分からなくて。 「ぁ……だって……」 「だって?」 「わかんな……」 「?」 「わかんない」 「何が?」 「なにが、変? オレ、どっか変?」 「……司……」  オロオロと聞けば、困った顔した颯真が、そっと溜め息を吐いた。 「変っていうか……。一緒にいるはずなのに、ずっと淋しそうだから」 「さみし、そう……?」 「オレのせいかな……ずっと、全然……楽しそうじゃないから」 「ちがっ……! ちがう! そんなことない」  ぶんぶん首を振って、違うと訴えても、颯真の哀しそうな目が、じっとオレを見つめていて。 「ちがう……ホントに……」 「……」 「ぁ…………っ」  何度も口を開いては、口籠もっていたら。またそっと溜め息を吐いた颯真が。 「……帰ろっか」 「…………うん……」  少し疲れたみたいな顔して、オレの腕を引くから。  言いたいのに見つからなかった想いが、喉を塞いで苦しくなる。 「司」 「……うん?」 「恥ずかしくなかったよ、全然」 「ぇ?」 「さっきの。ケーキ、くれたの」 「…………ホン、トに……?」 「うん。むしろ嬉しかったよ」 「ぇ?」 「だから…………司。淋しいとか楽しくないなら、ちゃんと言って。オレ、ちゃんと聞くから。オレだけ楽しくても、意味ないんだよ?」  ぎゅっと。力の込められた手の平と、切ない声が、苦しさに拍車をかけて。  喘ぐみたいに浅い呼吸を繰り返して、首を振った。 「違う。ホントに……違うよ、颯真」 「……司」 「違う……」  小さな子供が駄々を捏ねるみたいに呟いて、心配そうに見つめてくる颯真を、そっと仰ぎ見る。 「……なんか、分かんないんだけど……」 「うん?」 「…………やだったんだ」 「司……」 「ちがくて。そうじゃなくて」  言葉が足りなくて、哀しい目になった颯真に首を振ったら、息をなんとか深く吸って。 「周りの子が……颯真のこと……見てたのが、やだったんだ……ッ」 「----つかさ?」  震えた息に載せた音。  その言葉の意味には、苦しくて気付いてなくて。  驚いて目を見張って固まった颯真の、そのリアクションにさらにオロオロして。 「ぁ……だって……だって颯真っ……おいしいって、笑うから……みんな、見てて……だって、颯真、オレのなのにっ」 「~~っ、かんべんして、司っ」 「へ?」  訳も分からないままに、とにかく思いつくまま言葉を並べていたら、颯真がぐしゃぐしゃと頭を掻いて地面にしゃがみこんだ。  どうしたのと見下ろしたら、耳まで真っ赤にして手で顔を覆った颯真が、肩を震わせていて。 「そうま……?」 「それってさ、司」 「うん?」 「嫉妬したってこと?」 「…………ぇ?」 「独占欲ってことだよね?」 「------------ッ」  確かめる声は、喜びに弾んでいて。  ようやく自分の口走った台詞の意味に気がついて、あわあわと次の台詞を探したけれど。 「~~司ぁっ」 「わぁっ!?」  ぶつかる勢いで抱きついてきた颯真が、ぎゅっと、あらん限りの力で抱き締めてくる。 「なんで外でそんなこと言うの。煽んないでって、何回も言ってるのに」 「あおってなんかないってば!!」  ぐりぐりと肩に顔を押しつけられてあたふたしながら。  だけど、顔を上げた颯真の、紅くて、はにかんで嬉しそうに笑う顔に、ホッとした。 「帰ろう、早く。外なんかじゃできないことしよう」 「っは!?」 「あ、でも、昨日作ってくれた司のごはんも気になるから、帰ったら食べよう。そんで、いちゃいちゃしよう」 「何言って」 「したくないの?」 「--------っ」  ニヤリと笑う唇と目は、逸らしようのない引力でもって、オレを引きつけてくるから。  応えを待ったままの意地悪な颯真の、言うなりになるのも悔しいのに、嫌じゃないのがまた厄介で。  結局、そっと颯真の腕を引いた。 「かえろ、早く」 「--------ホント。司には敵わないよ」  作っておいた豆腐と豚肉のチャンプルーは、昨日味見した時に比べると豆腐の水分のせいで少し薄味になっていたけれど、颯真は気にせず美味しいと食べてくれて、今後のレパートリーの1つになってくれそうだ。  もりもりご飯を食べる颯真に、ホッとしながら自分も箸を動かす。 「あぁ、なんか……」 「ん?」 「新婚さんみたいだよねぇ」 「……また」  てれぇっと嬉しそうに笑いながらもぐもぐしている颯真に、思わず苦笑したのに。 「だってそうじゃん」  嬉しそうに笑った口元とは対称的に、真っ直ぐで柔らかくて優しいくせに真剣な目に、見つめられてモゴモゴと俯く。 「ご飯もおいしいし。帰ったら家に誰かいるって、ホント全然違うもん」 「……ふぅん……」  素っ気ない返事をしながら、ちょっと分かるかも、だなんて心のなかで同意する。  颯真がバイトに出掛けた後の一人ぼっちの家は、随分ガランとしていて、とんでもなく淋しいから。 「……ありがとね、司」 「何が?」 「三連休、ずっといてくれて」 「…………まだ」 「ん?」 「明日もあるよ」 「そだね。明日はバイトも休みだから、一日中一緒にいられるしね」  にこりと笑った颯真が、最後のご飯を掻き込んだ後。 「明日はさ、ちょっと出かけよっか」 「…………どこに?」 「公園。司も知ってるでしょ、市立公園。なんかイベントやってんだって」 「……」 「ちょっとブラブラ散歩しよ。三日も家のなかにいたんじゃ、体鈍っちゃうよ」  あえて遊びに行こう、という言い方を避けてくれた颯真に、そっと感謝しながら、うん、と頷く。  そんなこと気にする必要なんて、颯真にはないのに。  細やかに気遣ってくれるのがありがたくて、ほんの少し申し訳ない気もする。  だけどこう言うときに、ごめんを言うと、颯真は必ず言ってくれた。 『ありがとうのが、嬉しいかな』  だから。 「…………ありがと、そうま」 「----ん」  小さく呟いたら、颯真がほんの少し驚いた後で。  ぽむぽむと頭を撫でてくれる。  よくできましたと笑う顔と優しい手のひらに、なんだか泣き出しそうになりながら、ごまかすみたいに箸を動かした。 *****

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