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求め合う日曜日 - 2
ベッドの端に並んで腰かけて、照れ臭く笑う。
ハジメテの夜くらいにお互い気恥ずかしくて、もじもじしなから。そんな自分達がおかしくて、照れ笑いしたら、ぎゅっと抱き締め合う。
ドキドキと鳴る心臓の音が、隔たり合う体を通しても、互いを高め合うみたいに響いてきて。
ぎこちなく腕を緩めて、少し俯いた司の顔を覗きこんで。ぎこちなく唇に唇を重ねたところで、ふ、と互いに小さな笑いが漏れたら、ようやく肩の力が抜けた。
今度は柔らかくて優しいキスをしたら、抱き締めた腕の中でくすぐったそうに首を竦める司の首筋に唇で触れる。それだけのことに、ぴくん、と跳ねる肩が可愛い。
照れ臭そうに笑ったままの目が少し潤んで、口元がきゅっと引き結ばれるのが分かる。
今日は優しくしようと、こっそり心に決めているのだけれど。
毎度毎度、こうもウブで可愛い反応をされると、理性の保ちようがなくて困ってしまう。
「ッ、ン」
かぷ、と。いつもは司がオレにするように肩を甘噛みしたら、真っ赤に染まった耳に指先でそっと触れる。
「ひゃっ」
「……耳、弱いね」
「ぅ、るさ、ぁッ」
さわさわと耳をくすぐりながらからかえば、熱く濡れた溜め息の合間に、可愛く照れる声が文句を言うけれど。
「だってホントのことだし」
「ンッ、ア……っぁ」
耳朶を舌でなぞりながら、反対の耳は指先で撫であげる。
「ァっ……ァ、や……ッァ」
ふるふると小さく頭を振るのが可愛くて、小さな耳を散々苛める。
「もぉ、やぁ……ッ」
小さな声は、既に熱く艶めいていて、酷くそそられる。
そっと覗き込んだ顔は、真っ赤に染まって、目尻に小さな雫が溜まっていた。
「可愛いね、ホントに」
しみじみ呟きながら、目尻に唇を寄せたら。
司の指が、オレの指に触れて。きゅう、と握ってくるのが、やけに幼くて可愛い。
「どしたの?」
「ぁ……」
「司?」
「っ……ぁ……ッ」
何かを言い淀む唇と、切なく寄せられた眉。
「ん?」
気付いてるくせに、苛めたくなったのは。たぶん、小さな子供が好きな子にちょっかいをかける心理と、良く似ていると思う。
にこりと笑いかけたら、もごもご口ごもってた司が、くぃ、と繋いだ指を引いて。
「…………きす」
「ん?」
「…………もっと……して」
「……ん」
小さな声で囁いた司の顔が、暗い部屋の中にあってさえ、赤く染まっているのが分かって。
本当に可愛すぎて困るだなんて、ノロケた台詞を心に浮かべながら、啄むようなキスをする。
「ん……もっと……」
欲しがる甘い声と、蕩けた顔と。絡まったままの指が、ぎゅうぎゅうとオレを求めてくれて。
愛おしさが昂りすぎて破裂するんじゃないか、なんて馬鹿なことを考えながら。
「もっと、颯真」
「りょーかい」
「ンッ」
潤んだ目に煽られて、唇に噛みつく。
不器用に応えてくれる、ぎこちない唇と舌が愛しくて。
(優しくするって決めたのに)
気づけば司の肩をベッドに押し付けていた。
「そ、ま……」
そっと、司の手がオレの頬に触れて。
ん? と見下ろしたら。
「もっと……颯真」
誘う声と、優しく細められた目と。柔らかく微笑う唇があって。
----あぁ、もう。
溢れた愛おしさに任せて唇を貪りながら、求め合う幸せを噛み締める。
手を滑らせて司の手を探り当てたら、互いに指を絡め合わせて。
一秒も離したくない唇を、だけどゆっくりと離す。
「司」
「ん?」
「司」
「……颯真?」
「大好き」
「----ん。おれも」
大好きと、囁くのと同時に、そっと指が外されて。
指が外れたのと同じくらいにそっと、首の後ろに腕が回される。
「だいすき、そうま」
はにかんだ口元に音を載せた司が、ぐりぐりと胸に、頭を擦り付けてくる。
「司」
滾る欲望は、司を壊したくて疼くのに。溢れる愛おしさは、司の全てを包み込むために枯れることなく湧き上がってくる。
「司」
頭を抱え込むように抱き締めて、唇で髪に触れた。
もぞもぞと顔を上げた司がオレを仰ぎ見る、その照れた目元に唇を寄せたら、互いを求めて吐息と舌を奪い合う。
どのくらい味わったのかも分からなくなってきた頃。
司の震える指先が、そっとオレの欲に触れてきた。
*****
「……司?」
すっかり息の上がった颯真に、キョトンと呼び掛けられたけど。
耳元でうるさいくらいに鼓動が鳴り響いてるオレには、聞こえないフリする選択肢しかなかった。
こんなにも愛しくて、だけどこんなにも恥ずかしい気持ちを、改めて聞かれたりしたら、羞恥心でどうにかなりそうだ。
さっきまでのキスですっかり力の抜けてしまった指先で、もたつきながらも、どうにか颯真のズボンの前を寛げて、熱く滾るそれを取り出す。
「ちょっ、つかさっ!?」
悲鳴じみた声も、聞こえないフリだ。
颯真の熱さに感染したみたいに、自分まで疼いたけれど。
そんなことよりもただ、颯真が欲しくて。
かぷ、と。
歯を立てないように気を付けながら、先端をほんの少し口にくわえる。
「ぅ、あ……ッ」
呻くみたいな切羽詰まった声をあげて頭を振った颯真が、余裕のない声で、離してと訴えるのを無視する。
「つかさっ……はなしてってばッ」
いや、と。
小さく呟いたら、後は夢中で舌を這わせて舐め上げて。口一杯に頬張って吸い上げる。
「ッ……ダ、メ……だっ、て!」
オレを離そうとする手に、逆らっていたら。
「ッ、かさっ」
「----ンンッ」
ごめんと呻いた颯真が、喉の奥に放つのを、噎せながらもどうにか受け止めて、苦労して飲み下す。
「つかさ……なにしてんの……」
呆然と呟いた颯真に、だけどオレが返せたのはたった一言だ。
「もっと」
ちょうだいと、呟いた唇を颯真が塞いで。そのまま押し倒されたら、性悪な指先に胸を弄ばれる。
「せっかく……」
「……?」
「優しくしようと思ってたのに」
悔しそうな声で呻いた颯真の、オレの上を這っていた手を、そっと取って。
「司?」
「やさしく……なくて、いい」
「つかさ……?」
取った手を、口元へ。
ごくりと颯真の喉が鳴ったのに、煽られたんだと言い訳しながら。
ちゅ、と。指先に唇を寄せてから、はむ、と指先をくわえて。
「いっぱい……して」
「----ッ」
ちゅぅ、と。さっきまで颯真自身にしていたように吸い上げたら
「後悔しても知らないから」
余裕のない声で呻いた颯真が、オレの口から手を取り返して、いきなり服の上から胸に噛みついてきた。
「っ、ァ……」
「----壊すよ」
小さく声を上げたオレを、ギラついた目で見下ろした颯真が、確かめるみたいに呟くから。
「…………いいよ」
壊してみてよと、熱に浮かされて呟き返す。
見たことない表情(かお)した後で、天を仰いだ颯真に、両手を伸ばして頬に触れたら、その手を掴まれてベッドに押さえつけられた。
「そ……っ」
名前を呼ぼうとした唇を塞ぐ唇。声と息を奪う熱い舌。
押さえつけられたままの手を掴む颯真の手のひらは、熱くて大きくて。ぐいぐいベッドに押し付けてくるその強さは、まるでオレを逃がすまいとしているかのようで。
それが心地いいだなんて、オレも相当おかしい。
ふ、とキスの合間に零れた苦笑を、颯真の舌に応えることで紛らせて、もっととねだって舌を吸ってやる。
息継ぎもロクにしないで、唇を交わしていただけなのに。
触れられもせずにズボンの中で痛いほどに自己主張して、吐き出す寸前のそこに。
「----ッ!?」
オレがさっき剥き出しにした颯真の熱が布越しに押し当てられて、腰が跳ねた。
「ぁ……ッ……ァ」
「責任、取ってね」
「な、んの……」
「こんなにした、責任。正直、オレも自分でひくぐらい、デカくなってるから」
「ッ」
「壊すよ、今日はホントに」
「ぁ、……ッあぁッ、ンぁ」
低い声を耳元に注ぎ込まれて。
押し付けられた熱に煽られて。
「……なに、イッちゃったの? 押し付けられただけで?」
「ぃやぁっ、あッ、さ、わッンな」
下着の中で呆気なく弾けた欲を、オレを押さえていた颯真の手が、ズボンの上から触って擦ってくる。
「やぁっ」
「想像したの? オレのコレ、イレられること? 壊すって言われて、興奮したの?」
「ァ……ッ、ぅ、ァ」
「ねぇ司。どうなの?」
「そ、……ま」
「どうなの?」
許してくれない手のひらと声が、またオレを煽って。
「…………した」
「ん?」
「こうふん、した」
「ふぅん?」
「ほしッ、ぃ」
「ん?」
「ちょうだい」
これ、と。震える手で、颯真の熱に触れて。
無意識に、腰を揺らしていた。
「ちょぅ、だい」
*****
「ちょぅ、だい」
譫言みたいな司の声に、ゾクゾクと背中を走った快感。
よくできましたと笑ってやって、性急にズボンを寛げたら。
「お返し」
仕返しかな、と。
意地悪く囁いて、欲を吐き出したばかりなのにもう熱くなってる司自身に唇を寄せた。
「ぃやッ」
悲鳴じみた声は、当然無視だ。
司がしてくれたのと同じように、舌を這わせて指を絡めて、舐めて吸い上げながら、絡めた指を上下に動かす。
「ぃやぁッ、やぁっ、そぅまぁ」
すすり泣く声も、無視する。
だってオレだって同じことされたんだから。
「おあいこだよ」
ニヤリと笑って見せたら、ふにゃ、と緩んだ司の目から、パタパタと雫が零れるからドキドキしてゾクゾクした。
こんなにも苛めたくなるなんて、オレも大概どうかしてると思うのに。
恥ずかしさと気持ちよさに咽び泣く司の姿に、否応なしに体が熱くなる。
壊す、なんて言っときながら、実はオレも壊されてるんじゃないか、なんて思いながら。
物欲しげに揺れた腰の辺りをサラリと撫でて煽って、切なげに震えた欲に舌を這わせる。
「も、う……そぅまッ」
切羽詰まった嬌声がオレを呼ぶのに任せて、舌と手で解放してやろうと、
思ったのに。
「----ッ、そうま!?」
「ちょっと……我慢、とか……してみる?」
「ぇ?」
きゅう、と。根本を指で塞き止めて笑った。
*****
「ぅ、あ……ッァ、ァ……そ、ま……」
「ん?」
「も……おねが」
「ん?」
出口のない快楽が、ぐるぐると体を巡って、気が狂いそうだ。
パタパタと零れる涙を唇で吸い取った颯真は、嬉しそうに意地悪く笑う。
「でも、気持ちいいんでしょ?」
「----ッあ、ぁ……ッも、ぉ……やぁ……」
ぐぃ、と奥の奥を強く突かれて、腰が震えるのに、気持ち良く放てない欲が、また内(なか)でどろどろと渦を巻く。
もう、気持ちいいというよりも、苦しい。
自分のジャージの腰の部分についていた、滑り落ち防止の紐で、根本を縛られた。
その後に、後ろを丁寧に----むしろしつこく解されて、そこからずっとオアズケ状態だった。
ドロドロと渦巻く欲に溶かされて、頭の中まで溶けてしまいそうな恐怖を、だけど覆い隠して塗りつぶす、絶対的な気持ちよさ。
訳が分からなくて涙が零れるのに、意地悪く笑ったままの颯真は、嬉しそうにオレを見下ろしている。
「そぅま」
「ん?」
「おねが……」
「何?」
「ぉ、ねがぃ」
「何が?」
「ぁ……ッ……----ッ」
「言って? 司」
「ぅあッ……ッぅ、ぁ」
こん、と。奥を軽く突かれただけで、ぐるりと世界が回るみたいな錯覚。
「ぉねがッ」
「言ってよ、司」
お願い、と颯真が笑って、奪われた唇と、口内をくまなく動き回って攻め立てた舌に。
溶けた全てが。
「--------ィ、かせて……そうま」
「ん?」
「イかせて、そうま」
「ん」
啼いたまま告げたセリフに、颯真が満足そうに笑ったら、後はもう、何も覚えていない。
*****
(だっから……)
何やってんだよホントに、と自己嫌悪に頭を抱える。
ベッドの上で、意識を失うみたいにストンと落ちてしまった司の。こめかみの辺りは、涙と汗で湿っている。
昨日むちゃくちゃしたから今日は優しくする、だなんて。いったいどの口が言ったんだろう。
ぐしゃぐしゃと頭を掻き乱して、深く長い溜め息を吐く。
(…………だって……)
司がなんだか、妙に乗り気で。いつも恥ずかしがって照れくさがりの司には、珍しいくらいに昨日今日と求めてくれて。だからついつい、嬉しくなってしまったのだ。
オレのせいって言うより、司のせい、なんてやけくそ気味に責任転嫁しながら。
けれど、よくよく考えてみれば、なんだか少し焦っていたような、切羽詰まっていたような。
淋しそうな目を、していたような気もしたりして。
勿論今日は、お茶しに出掛けた店でのことを、少し申し訳なく、後ろめたく思っていたのもあるのだろうけれど。
それにしたって、少し
(……おかしいよなぁ……)
小さな溜め息を重ねて、目尻に残る涙の跡を拭いてやったら。
その手を、ぎゅっと。
眠っているとは思えない強さで握る司の手が。
切なくて、哀しくなった。
「どしたの、司……」
なんかあったのと問いかけても、応えが返ることはなく。
眠ったままでオレに助けを求めてるみたいな必死な手のひらを、ぎゅっと握り返してやって。
空いた方の手で、優しく頭を撫でてやることしか出来なかった。
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