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香る一夜
リリンと軽やかな音が鳴り、鳴らした途端それまで全く感じなかった緊張で身体が固くなるのがわかり、斎藤は小さく深呼吸をした。
ドアが開くまでのほんの僅かな時間が永遠にも感じられる。
いっその事立ち去ってしまおうと思うくらいに待たされ、漸くドアが薄く開いた。
「お待たせしました」
表れたのは恐らく男性だった。
恐らくと形容したのは見ようによっては女性にも見える薄く細い身体、
身長も男性にも女性にもあり得る高さ、
何より顔、
一言で言ってしまえば、美人、それがぴったりだった。
「初めてのご来店ですね」
斎藤を見上げて店主が声を掛ける。
声も男性なら高く、女性なら低い。
どっちなんだろう…
そういえば男性か女性かすらバーで聞かなかったことを斎藤は後悔していた。
「紹介状はお持ちですか?」
店主に下から覗き込まれるように問われ、斎藤は我に帰って背広の胸ポケットからしおりを取り出し見せた。
「確かに」
そう言ってふわりと微笑んだ店主に斎藤の目が釘付けになる。
「どうぞ、お入りください」
店主がドアを背と手で押さえながら斎藤が通れるほどの幅を開けてくれる。
片方の手は店の奥を指している。
どうやら第一関門は突破できたようだ、
斎藤は店主に気付かれないようにそっと吐息を吐いた。
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