7 / 93

香る一夜

店の中に入り、店内をキョロキョロと見渡す。 特別珍しい物があるのかと言われてもわからなかった。 ただ、家具や服、食器など、扱っているものがアンティークなんだろうかと思い品物を見ていると、店主がどうぞと壁際に置いてあるソファへ導く。 ソファに腰を降ろすと少し距離を開けて店主も腰を降ろし、斎藤の方を向き、作り笑いを浮かべ口を開いた。 「お名前を伺っても?」 「あ、失礼しました」 斎藤はまた胸ポケットを漁り、名刺入れから名刺を一枚抜き、店主に差し出した。 「斎藤宏樹様」 名刺にある名前を読み上げると店主はクスクスと笑う。 「斎藤様、よく知らない店で素性の知れない人間に簡単に名前を明かすのはやめておいたほうが身の為ですよ」 一瞬ぽかんとした斎藤はすぐにいつもの表情を取り戻し、店主に笑い掛けた。 「当てにならないと笑うでしょうが、俺の勘ではあなたは信用に値する」 ふふっと吹き出すように笑った店主は貼り付けたような笑みではなく、柔らかく微笑んでから薄い唇を開いた。 「今日は何をお望みですか? 何か飲みながら語らいますか? チェスやオセロで遊ばれますか? それとも」 店主の白い手が斎藤の手に重なる。 「、したいですか」

ともだちにシェアしよう!