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香る一夜
斎藤は今日だけで何度驚くんだろうと頭の隅で冷静に思う自分がいることを少し笑い、
店主の手を自分の両手で挟むようにして包んだ。
「俺はまだあなたが男性か女性かすらわかっていない」
「どちらがよろしいですか?」
まるで女性と答えたら女性に、男性と答えたら男性になれますよと言っているように聞こえる。
「すみません、私は男です」
ほら、と首を反らして喉仏を見せる。
なるほど、確かに喉仏がある、だが、その喉仏も斎藤や一般的な男性よりは遥かに小さく、わざわざ首を反らして見せてもらわないとわからないほどだ。
「男性とはご経験、おありですか?」
「いや、これまでは女性だけだ」
「…これまでは?」
「今夜あなたを抱くと男性経験あり、になる」
「………抱きたいですか?」
「そうだな、この先はわからないが、今は抱かれるより抱いてみたいと思う」
「……抵抗はないですか?」
「なさそう、だな」
自分でも驚いていた。
この男が男臭くないからという理由だけで抱けるかと言えばそれだけではない。
本能が欲しいと言っている気がしてならなかった。
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