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香る一夜
「君の好きな声で呼ぶから名前教えて」
腰を抱いた手に力を入れ下腹部が触れ合うように引き寄せたまま耳元に顔を降ろした。
「…………紫音」
「綺麗な響きで君に似合ってる。
どんな漢字?」
「紫の音」
「……紫音」
漢字を思い浮かべながら口に出すと、紫音の身体が先程より大きくびくりと揺れた。
項まで赤く染まったところを見ると本当の名前なのかもしれないと斎藤はほくそ笑んだ。
「紫音、シャワー一緒に入ろう」
「あ、あなた、男性経験ないって」
「ないよ、だからこれからのためにも紫音が今日俺に教えて」
目を大きく見開いて斎藤を見上げる紫音は先程までの紫音とはまるで別人に見える。
「先程相性次第だと」
「うん、でも一度きりで終わらせたいとは思っていない」
斎藤の言葉に薄い水の膜が張られた目が揺れる。
どちらも美人に違いはないが、斎藤としては今の紫音のほうが断然好みだ。
ドロドロに甘やかして強請らせて蕩けさせて、そして少し啼かせてみたい。
どんな声で喘ぐのだろう。
汗の匂いや触れる肌の感触はどうだろう。
唇や舌はどんな味がするのだろう。
危うく下半身が反応しそうになり、斎藤は紫音の腰に手を回したまま風呂に向かった。
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