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香る一夜
しますか?と誘われたのは俺だったよな。
斎藤はつい先程店で紫音が言った言葉を思い返した。
いや、これはこれで愉しいことは愉しいのだが、あまりのギャップに脳がついてこない。
「紫音、あまりその気じゃなくなった?」
「え?」
「いや、さっきは上に乗られそうな勢いだったのに、今は俺がいいからいいからって押し切って、てごめにしようとするおっさんみたいで」
「ふっ、おっさんて」
口に拳を当てて笑った紫音は素の感じがした。
「その顔、好き」
「え」
「普段の紫音はわからないけど、作ってない感じがした」
またうっすらと赤くなった紫音を抱き寄せると紫音の手が裸の胸を押す。
「あなたが、男性経験はないって言ったからリードしようと思っていたのに、
腰を抱いたりキスをしたり、
ま、まるで恋人のように私を扱うから…」
「照れたの?」
こくんと小さく頷く紫音を思わず強く抱きしめる。
「ちょ、」
「宏樹」
「え?」
「呼んで、宏樹」
「でも…」
「紫音の声、俺も好きだ。
その色っぽい声で呼んで」
「………ひ、ろき」
言い終わるか終わらないかのところを唇で塞いだ。
ひんやりとする薄い唇に合わせるだけのキスを角度を変えながら何度もして、
紫音の唇が熱くなったところで舌で唇を突くと紫音の唇が薄く開かれる。
すかさず舌を割り入れると驚くほど口内が熱く触れる舌も蕩けるほど熱かった。
「ん、」
時折鼻から洩れる紫音の声に否が応でも下半身が反応を示す。
まさか自分が男と抱き合い、キスをし、
下半身まで反応させることが起こるなんて。
これだから人生は面白い、こうでなくちゃいけない。
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