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香る一夜
「紫音、これは君の策略?」
こめかみを押さえて俯く斎藤が独り言のように聞くと、紫音が斎藤の前にしゃがみ込む。
「そう、だと言ったらやめますか?」
顔を上げると間近に迫った綺麗な顔。
濡れた目とうっすらと目元が赤く染まったこれが演技だとしたら主演男優賞物だろう。
それに仮に策略だと言われたとしても、とっくにやめられないところまできていた。
斎藤は紫音の手首を掴んだまま立ち上がると浴室に引きずり込むようにして入る。
シャワーを出し湯の温度を確かめると紫音の身体に湯を掛けた。
「あ」
紫音が視線を下げ止まり、その視線を追うように斎藤も下を見ると。
「脱ぐの忘れてた」
濡れて色を変えた下着がこれでもかと肌に張り付いていた。
「ふっ、あっは、ふふっ、」
紫音は腹を押さえながら膝が崩れそうなほどの大笑いをしている。
自分のあまりの間抜けぶりと、顔を真っ赤にして涙を流しながら大笑いする紫音を前に斎藤は少々赤くなりながら張り付いた下着を脱ぎ捨てた。
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