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香る一夜
「紫音がもし満足したら」
声が好きだと言った紫音に意識して低く甘い声で耳朶に唇を擦り寄せながら斎藤は言った。
「……また導いてくれる?」
「や、約束は、できません」
斎藤は明らかに狼狽えて見える紫音の唇をキスで塞いだ。
そうだ、この店のことはまだほとんど知らない上に紫音のことも名前しか知らない。
どんな店なのか、店で品物を売る以外の目的は何か、
他の客ともしているのか、
聞きたいことは山程あるが、それをきっと紫音は作り笑いを浮かべて聞き流すか、
二度と導いてはくれないか、どちらかのような気がする。
それが怖い。
それは嫌だ。
今夜初めて出逢い、謎だらけの店に、謎だらけの店主の紫音。
どうしてこれほど強く惹かれるのだろう…
全てを知りたい気もするし、謎のままでもいい気もする。
自分で自分の気持ちがわからず持て余すことなんてこれまでなかった。
わかることは、今は紫音に触れて、喘がせ、朝まで繋がっていたいという強い欲望。
紫音の口の中を舌で愛撫しながら斎藤は行為を覚えたての頃の自分を思い出し懐かしさに舌を吸いながら軽く笑った。
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