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迷う二夜

「そんなに大負けしたんですか?」 何杯か口にし、ほろ酔いになった斎藤にマスターが問いかける。 え、と顔を上げきょとんとする斎藤にマスターはうんと大きく頷いてから斎藤に顔を寄せた。 「あの方、勝ちに来るとえげつないですからね、他の方も結構痛い目にあってるそうですよ」 「マスター、それ何の話し?」 今度はマスターがきょとんとする。 「賭けチェスで大負けしたんじゃないんですか?それともオセロで?」 「いや……」 「ああ!利き酒勝負ですか!」 マスターが言っていることが本当なら、何故俺は彼と寝たのか。 「マスター…………」 「負けを取り返そうとしましたけど、再戦は一度だけ、さらに負け越しですよ、斎藤様も早々に諦めたほうがいいですよ」 俺の思っている店と違う店の話しか? 斎藤はこめかみを押さえながら底から湧き上がるような頭痛に低く呻く。 「忘れられない夜になるって」 「なったでしょう?」 ………確かに。 マスターの言葉に笑ってしまいながら斎藤は目の前のグラスを煽った。

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