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迷う二夜
「マスター、俺は賭け事らしき事も利き酒もしてない。
名前は教えてもらったが、先週忘れろと言われしおりも回収されたんだ」
これは一体どういうことなのか。
斎藤はもはや縋るようにマスターを見上げて答えを待っていた。
「………わかりませんね」
他に何か?と聞かれて斎藤が一瞬口籠る。
身体を重ねたことは話さないほうがいいだろう。
「店の奥の部屋で………」
「店の奥の、部屋?」
マスターにびっくりした。
急に大きな声で繰り返されたそれがそんなに驚くことなのか。
「斎藤様…」
「はい」
「何から何まで特別で、まだ気付かないんですか?」
「特別って言われても…」
自分が他と違う扱いを受けたと知ったのは今夜だ。
例え特別だとわかったところで………
「特別だったとしても、さっき話したように忘れろと言われたんだって」
「無粋な男ですね」
吐いて捨てるように言われ斎藤は呆然としたままマスターを見つめた。
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