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迷う二夜
ドアを背で押さえ、斎藤の腕を軽く引っ張る。
引っ張られるままに斎藤は店の中に身体を入れた。
ふわりと漂う花の香りに鼻を鳴らすと身体の力が抜け、それまで力がいかに入っていたかがわかった。
ドアに鍵をかけると先週と同じように紫音が店の奥へのカーテンを僅かに開ける。
斎藤はごくりと唾を飲み込んでから紫音の名を呼んだ。
「俺にとって悪い話しなら、ここでいいよ」
「何故です?」
「期待してしまうし、思い出してしまうし、」
斎藤が紫音を目の中に捉える。
「抱いてしまう」
びくっと紫音の肩が揺れた。
「拒否される、とは考えないのですか」
「紫音より俺の方が力が強いし、身体もでかい。
押さえ込むのはたぶん簡単だ。
でも、そんな風に抱きたくない。
でも……無理にでも抱きたくなってしまう」
好きだから、と続けようとした斎藤の唇を紫音の唇が塞いだ。
柔らかく触れる冷たい唇に熱を与えるように斎藤は無我夢中で唇を押し付ける。
まるで初めての口づけを交わす思春期の頃に戻ったような2人は舌を絡めることも忘れ、角度を変えただ唇を重ね合った。
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