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迷う二夜

紫音の二の腕を掴んでいた手をゆっくりと首筋に上げ耳元を擽るように指でなぞると、 それまで呼吸を止めていたかのような熱い吐息が紫音の唇から漏れた。 それを合図にするかのように斎藤の舌が紫音の唇をそっと撫でた。 拒否されるかも、 嫌だと顔を歪めて泣き出しそうな顔で離れてしまうかも。 初めてキスをした時の自分はまるで獣のようだったんだな、と斎藤は内心苦笑いをした。 今はキスひとつがこんなにも怖く、官能的で酷く尊い行為に感じる。 合さった歯列を伺うように舌でなぞり、唇を食むように吸い、もっと触れ合いたいとみっともないほどに強請る。 抱きたいとついさっき零した自分を消し去ってしまいたかった。 紫音の舌と深く繋がれればもうそれで満足しそうだ。 触れ合える距離にあるのにとても遠い。

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