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迷う二夜

名残惜しそうに舌を引き唇を離した斎藤だが、そのまま身体まで離そうとはしなかった。 離れていきそうな紫音の髪を優しく梳きながら、背中に回した腕で囲うように閉じ込めた。 こうして抱きしめることさえ久しぶりだ。 少し早く感じるお互いの鼓動を伝え合う行為かと思うほど2人はしばらく動けずにいた。 斎藤の肩に額を当て顔を隠すようにした紫音が話し始める前の息を吸う気配に回した腕に思わず力が入る。 「さっき、私を好きだと…」 「うん、言ったよ」 「遊びだったのでは……」 驚いた斎藤が思わず紫音の肩を掴み身体を離して顔を覗き込むと、 突然顔を見られたせいか、紫音の頬がじわりと赤く染まる。 「どうして、俺の何がそう思わせた?」 「……私が寝ている間に何も残さず帰ったじゃないですか」 さらに頬を染め、顔を背けた紫音は拗ねているように見える。 「泊まって良かったの?」 「それはっ、でも何も告げずに何も残さずに居なくなるってことは遊びだと思うでしょう」 あたふたと言葉を繋ぐ紫音を見ているうちに余裕が出てきて身体の力もいい具合に抜けてきた。 背中に回していた手を降ろし細い腰を抱くと紫音の手が斎藤の胸を弱く押した。 「名刺渡したし、裏にプライベートの番号も書いてたから、もしかしたら連絡もらえるかと思ってた」 「裏に……?」 「やっぱり気付いてなかった?」

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