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迷う二夜
「ぁ、待って」
唇が離れた時にはもう斎藤は深く入り込み、胸を押す紫音の手を諸共せずまた唇を重ねにいった。
唇を食むように重なる熱い唇に紫音はつんと鼻の奥が痛む。
唇が、手が、それこそ触れる全部が愛しいと告げているようで。
求められる自分の全てもまた、あなただけだとさらけ出してしまっているようで。
こうなるはずじゃなかった。
自分にはすべきことがある。
随分前にしまい込んだ想いを、この人にまた出会ってしまったことでどうにも押さえられなくなってしまった。
異性愛者のこの人を望んでも手に入らないと諦めたのに、
抵抗もなく自分に誘われるまま一夜を共にしてくれた。
これ以上は、望んでは駄目だ。
そう思い離しても、心も、たった一度重ねた身体までも諦められないと泣く。
一夜の思い出だけで生きていこうと決めた決心はこの人を前に脆くも崩れ落ちた。
きゅうと泣くように突然痛いほど締め付けられた斎藤がキスをやめ顔を上げると、
紫音が声もなく泣いていた。
「紫音、痛い?辛い?」
溢れる涙を大きな手で拭うと紫音が柔らかく笑みを浮かべた。
「痛くない、辛くない、だから」
首に回された手が降り斎藤の頬を包んだ。
「もっと、抱いてください…」
「朝まで、でもいい?」
思いの外真剣な斎藤の声にふっと思わず笑いを零すと紫音はまた手を上げ斎藤を引き寄せる。
「試すんでしょう?どこまで我慢できるか」
笑いも涙も含む声を斎藤の耳に残してから斎藤の首筋に吸いついた。
朝が来なければいい。
斎藤は腰の動きを再開させながら強く思った。
朝が来て離れなければならなくなった時、紫音はまた拒絶の言葉を口にするかもしれない。
それにいつまででもこうして腕の中に抱いていたい。
自分の下で喘ぐ紫音を永遠に見ていたい。
自分を紫音の中に刻むように斎藤は強く紫音を抱き締めていた。
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