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強請る三夜

子供たちが寝てしまった後の孤児院は静かだ。 暗く静かな部屋に他の子供の寝息だけが規則正しく聞こえる。 尿意を感じた紫音はなんとか朝まで気を反らすことを望んだが生理現象には逆らえず、ゆるゆると身体を起こしベッドから抜け出した。 廊下に出るとさらに静けさが増す。 暗闇の中に自分が取り込まれてしまうような心許なさに足早にトイレに向かった。 用を足してトイレから出ると先程よりだいぶ気も落ち着いていた。 食堂に灯りがついている。 さっきもついていたっけ。 余裕のなかった自分に自信もなく、フラフラと食堂に足を向けた。 声が聞こえる。 園長先生と、みなこ先生だ。 みなこ先生はもうかなりの年齢で、腰痛を庇いながら働いてきたけれど、脚に痺れが出てきたために退職すると聞いた。 にこにこと優しい笑みを浮かべ、その笑みと同じく優しい話し方が紫音は好きだった。 辞めると聞いた時はショックだったが、 辛そうに顔を歪め腰を擦るところを何度も見ていた紫音はゆっくり休んでもらえるなら、と自分で自分を説得したのだ。 「紫音…」 今僕の名前が出た? 途切れ途切れにしか聞こえない小さな二人の話し声に確かに自分が登場した。 足音を立てないように食堂に近づく。 かろうじて声が拾える場所までくると知らぬ間に止めていた息を長く細く吐き出した。 「やっぱりそういう結論に行き着くわね、どうしても」 「私達が知りうることが少なすぎるわね」 「紫音が不幸になるなら…知らないままのほうがいいわ。もし本当にあの方が紫音の父親なら紫音は普通の生活はできないでしょう」 「一度手放したんですもの、何か深い理由があるのよ」 「どんな事情があったにしても同情する余地はないわ。生まれたての子を捨てるなんて」 園長先生もみなこ先生も酷く辛そうだった。 来た時と同じように息を殺し、足音を立てないように部屋に戻る。 布団を頭まで被り、何故か震える身体を朝まで自分で抱きしめた。 聞いてはいけない話を聞いてしまった恐怖はそれからしばらく紫音を悩ませ挙動不審にさせた。

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