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蘇る四夜
「じゃあ、ちょっくら行ってくるわ、ありがとうね、お花」
たかさんの声に紫音が手を振るとタクシーは静かに滑るように流れるライトの中に紛れていった。
「ありがとう、とても助かった」
水曜日の男は乗らなかった。
たかさんに女の住所を告げると多めの金をたかさんに渡し、お手数をおかけします、と頭を下げた。
タクシーを見送り店の中に入った紫音を追うように男も入ってくると礼を口にした。
「これ、もらえる?あるだけ」
水曜日の男が指を指しながら紫音に告げる。
言われるまま集め花束にし、リボンをかける。
紫音の言う通りの代金を払い、花束を受け取ると、男は笑顔と共に紫音にその花束を差し出した。
「今夜のお礼に受け取ってくれる?」
呆気にとられる紫音の手を取り男が花束を渡す。
「花言葉とか知らないけど、嫌な意味じゃない?」
小さく頷く紫音の肩を抱き、一瞬、ほんの一瞬ハグをした。
背中をポンと叩かれ、ありがとうと言われた言葉と低く甘い声が全身に響き駆け抜けた。
またね、と笑顔を残して去っていった水曜日の男。
触れられた肩が、囁くようにされた耳が、まだ声を残した身体が熱い。
男が選んだのは紫のチューリップ。
「不滅の愛………」
紫音は大事に花束を胸に抱えた。
紫音がもらった初めての花束。
花言葉も知らず、適当に選ばれた花。
ありがとう、と感謝の気持ちだけの花束が紫音の胸をかき乱した。
望んではいけない。
望むものはこれまで全て去った。
望まなければ…あの男にまた会える。
望むな、望むな、望むな……
紫音はおまじないのように何度も何度も呟いた。
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