71 / 93
蘇る四夜
いつものように店を開け、ぽつりぽつりとやってくる客に仮面のような笑みで対応し、夜が更ける。
閉店時間が迫り片付けを始めた紫音の目にあのチューリップが映る。
滅多に売れない紫のチューリップ。
明るく鮮やかな花たちばかりが望まれ選ばれていく。
人間と同じだ。
全て売れたと喜んだ店主が仕入れたチューリップは日に日にまた隅に追いやられ、それでも変わらぬ美しさを保つ。
「散る前に僕が買うからね」
紫音が呟き終えた時半分ほど閉めたシャッターがガシャンと派手な音を立てた。
「すみません!」
その声に身体が震えた。
まさか。
そんな訳ない。
はい、と声のする方に歩き出せ。
そう思うのに、縫い付けられたように濡れた床から脚が動かない。
「すみません、あ、いた」
身体を折り畳むように男がシャッターの下から顔を出し、暗い店の奥に佇む紫音を見、笑った。
ともだちにシェアしよう!