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蘇る四夜

「あ、あの花」 紫音の胸中など知りもせず男が指を指す。 「あれもプレゼントしていいかな」 芸がない?と笑いながら問う男に紫音が答えずに問いを被せた。 「何故この花を?他にも艶やかな花がたくさんあるでしょう」 うーん、と唸った後男は口元に笑みを浮かべる。 「ただきれいだなと。あの時一番目を惹いたから。君に似合うと思って」 込み上げるような涙を堪えバケツから花を取り店の奥に向かう。 作業台の上の小さな灯りだけでいつものように包装をする。 いつの間にか店内に入った男が紫音の手を前と同じように見つめていた。 「リボンつけてね、プレゼントだから」 楽しそうな声に胸が詰まる。 リボンをつけ終わった紫音に男が千円札を三枚渡す。 「開きかけですから半分でいいです」 「ダメダメ!花は花、綺麗なことには変わりない。それに君へのプレゼントだし」 半ば強引に金を紫音の手に握らせ、レジにそれを入れた紫音に男が花束を渡す。 「母の日のカーネーション以来だよ、誰かに花を贈るなんて」 照れ臭そうに笑う男にまた胸がぎゅうとなった。 またね、と花束を持った紫音の小指を撫でるように触れてから男はシャッターを潜って出て行った。 みなこ先生……… 幸せってどうやったらなれるの。 好きになった人をどうやって諦めたらいいの。 全てを教えてくれたと思っていたけど、全てじゃなかった。 だから、だからお願い…もう一度僕のところに戻ってきて教えて… みなこ先生が逝ってから一度も溢していなかった涙、それが止めどなく溢れた。 その日を最後に紫音は花屋の仕事を辞めた。

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