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蘇る四夜
焦るな。
言い聞かせるように彼女から視線を外した先にあの日のチューリップが映る。
彼女に贈りたい。
どうにかして彼女の記憶に残りたい。多くの客の一人にはなりたくない。
どこか辛そうにも見える彼女に花束を渡し、引かれてもいいとそっと小指に触れた。
君の記憶が薄れないうちにまた必ず来る。
一方的な約束を告げる指切りげんまんのように撫でて離れた。
それっきり彼女は姿を消しどれだけ探しても会えなかった。
たまにふと蘇る記憶。
紫音に出会ってから蘇ることが増えた。
どことなく彼女に似ているからだろうか。
暗闇に目を開ける。
珍しくこっちを向いて眠る可愛い人。
剥き出しになった裸の肩に布団をかけてやってからそっと抱き寄せる。
好きだと思ったのが初恋なのか、欲しいと願ったのがそうなのか、俺にもわからない。
好きだと、欲しいと、両方が揃いそうだと言うなら紫音が初めてだ。
「好きだよ、紫音……」
君が好きだというこの声で飽きるほど囁くから、どうかいなくならないで。
もっともっと毎日のように呆れるほど愛を告げるから、どうかもう拒絶しないで。
俺の体温で温かくなる紫音の身体を抱き締めながら強く目を閉じた。
目が覚めても俺の腕の中にいてくれることを願って。
蘇る四夜 終幕
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