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揺れる五夜

「あっ、ん…」 「紫音……紫音………」 随分明るくなったホテルの部屋に荒い2つの呼吸が絶えず響く。 抱いて下さい、と紫音は自ら服を脱ぎ笹本を誘った。 これが最後になる。 笹本と会うのも、笹本に抱かれるのも。 もう愛してると囁かれることも、それを証明するかのように身体全てを撫で高みに誘う手に触れられることもなくなる。 「挿れて…くだ、あっ…」 「紫音……誘惑しないで」 「おねが、……っ」 奥が、身体の奥底が、心が、切ない悲しい寂しいと叫ぶ。 これまで誰にも許さなかった場所を今、笹本に埋めて欲しい。 この気持ちは…恋なのか。 もう姿形さえ朧気なあの人を、それでもあの花を見る度に切なく思い出すのに。 抱かれるなら、貫かれるならあの人以外は嫌だと思うのに、今欲しくてたまらない。 笹本の全てを受け入れたい。 簡単な言葉で誘われたあの日をもう後悔しない。 本当に抱かれたこの日を絶対に悔やまない。 「修也さん…ください、あなたを」 忘れたくない。 愛されたことを。 求められたことを。 別れを惜しんだことも。 「紫音、約束して」 笹本の熱い手が紫音の頬を、汗で濡れた胸を撫でる。 「幸せになることを望んで。 好きな人を求めて、その人に求められたら抗わないで。 君は……愛されて生きていいんだ」 笹本の言葉に紫音の目から涙が溢れた。 「もう望まないことはしなくていい。君が君らしくあればきっと道は開ける。 もし、もしどうしようもなく迷った時は必ず俺に連絡して。 番号は絶対に変えないから」 一度もかけたことのない笹本への電話。 初めての夜の別れ際、かけてきちゃダメだよと揶揄うような口調でいいながら笹本は紫音の携帯に自分の番号を登録した。 本当は……待っていたのか。 紫音が会いたいと強請る声を。 「約束、できる?」 笹本の指はいつものように紫音を徐々に高みへと誘う。 小さく、でも何度も頷く紫音の頬にキスをし、笹本が微笑む。 「君の……最初で最後の初めてを貰うよ」 熱く固く太い物で身体が2つに引き裂かれる。 叫びにも似た声を上げる紫音の喉に笹本が歯を立てる。 「紫音、覚えてて。 ずっと、ずっと、忘れないで……」 ゆっくりと、やがて激しく揺さぶられながら紫音は笹本にしがみつくことも忘れ深く強い快感とほんの少しの痛みに酔った。 笹本の名前を呼ぶ甘い声に、呼ばれる度に愛を告げる言葉がかけられた。 まるで大きな船の底にいるように揺られる心地よさに紫音が瞼を閉じる。 この瞼が開く時にはまた、新しい自分を始めようと誓って。 揺れる五夜  終幕

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