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望む六夜
「紫音、客が帰るよ」
山名の声に紫音は振り返りはいと微笑む。
玄関先まで見送りにくる紫音に志島という議員がありがとうと声をかけた。
志島はここ一ヶ月ほど頻繁に訪ねてきては他の客人より長い時間山名と話し込んでいる。
「いつも長居してすまないね」
50代半ばほどの紳士はそう言って申し訳なさそうに眉を下げた。
「いえ、お気になさらず。またのお越しをお待ちしております」
紫音が笑みを浮かべ告げると、志島がジャケットのポケットを漁る。
あったあった、と笑う声と共に紫音の前に出された手のひらには飴が2つ乗せられていた。それも可愛いいちごの絵のついた飴が。
「飴は好きかな」
「はい」
思わず笑ってしまいながらも答えると志島は紫音の手を取り飴を乗せた。
「孫から貰ったのを今思い出したんだ」
笑う紳士の手に紫音が飴を一つ返す。
「美味しかったよと嘘をつくことがないように」
「そうだね、ありがとう」
紳士はそう言い、極自然に紫音の肩を引き寄せハグをした。
大きな手が飴を持ったまま紫音の背中をぽすっと叩いた。
「また来るよ」
「……はい」
無骨で愛想もなく挨拶もしない客人ばかりの中で志島だけはいつも笑顔で接してくれた。
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