88 / 93

望む六夜

三日後また志島がやって来た。 出迎えた紫音に志島が紙袋を渡す。 「昨日地方に行ってきたんだ。そのお土産」 「お疲れ様でした。ありがとうございます」 先生とのお話しの前にお出ししましょうか、と尋ねると、志島は笑いながら首を振った。 「これは君へのお土産。先生へのお土産はちゃんと別にあるよ」 それと、と志島が玄関を振り返る。 閉じられていなかったドアが開き入ってきた男。 その姿を見て紫音は目を見開いた。 「修也さん……」 「いつも長い時間一人だと退屈だろうと思って。山名先生から知り合いだと伺ったから連れてきたんだよ」 「先生……ありがとうございます」 浮かんだ涙が溢れないように紫音は頭を下げ声を絞り出した。 玄関先での賑わいを聞き、山名が出てくる。 久しぶりの笹本に笑顔を見せ山名は二人に2階の空き部屋を使うように言った。 「君たちも久しぶりだろう。のんびりするといい。私たちは好きにやるから」 山名はそう言い、志島を連れていつものように書斎に入っていく。 それを見届けてから紫音は笹本を振り返った。 時折笹本を振り返りながら2階へと上がる。 階段を上がってすぐ右側の部屋のドアを開け、笹本を先に入れる。 もう使われなくなった山名の長男が使っていた部屋だ。 ベッドと机があるだけの殺風景な部屋が笹本がいるだけで愛着のある部屋へと変わった。 「紫音」 その声と共に抱きしめられた。 「会いたかった……」 はいと答える代わりにその背中に腕を回す。 久しぶりの笹本の体温と匂いに大きく息を吸い込んだ。

ともだちにシェアしよう!