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望む六夜

髪にキスをした唇はそのままの場所で息を吸い吐いた。 「何か嫌な思いはしてない?」 「大丈夫です。山名先生はとても優しい方ですから」 「一度も返事をくれないから通い詰めてるって聞いた志島先生に探りを入れたんだ」 拗ねたような声にふふっと笑うと笹本が急に身体を離して紫音の顔を覗き込んだ。 「え?」 「笑った顔が見たかった…」 悪戯を叱られた子供のような表情の笹本にまた思わず笑みが溢れた。 その笑みの形の唇を笹本の唇が塞ぎ、そのまま紫音の顎を上げさせる。 触れるだけの唇に勝手に焦らされ、紫音が舌先でねだるように舐めると笹本が僅かに唇を離した。 「紫音、我慢できなくなる」 「だって……」 「紫音」 名前を呼ぶだけで待てを告げる男を紫音が下から睨む。 「君に触れたら…きっともう離せない。君が嫌だと言っても二度と側から離さない」 笹本が宥めるように紫音の髪を優しく梳くように撫でた。 「それは困るだろ?だから、煽らないで」 紫音の手を引きベッドに座らせると、自分もすぐ横に腰を下ろす。 「あれから何か手掛かりは掴めた?」 笹本の問いに紫音は俯きながら首を振った。 笹本に抱かれたあの日、紫音は全てを笹本に話していた。 自分の親が誰かわからないこと。 施設で育ったこと。 その施設にある議員が通い詰めていたこと。 その議員が自分の出生に関わりがあると思っていること。 父親が議員である可能性があること。 自分の出生のルーツを知るために政治関係者にコネが欲しいと思っていること。 そして、そのために何人もの男と身体の関係を持ったこと。 他に何の手掛かりもなかった紫音がそう動いたことに悲しそうな顔をしながらも笹本は受け入れ頷いてくれた。 そして、自分も動ける範囲で調べてみると約束をしてくれたのだ。 「施設に頻繁に出入りしていたのは楡沢秘書だ。楡沢秘書がついていたのはその当時斎藤議員。そこまでは俺もわかった」 「楡沢秘書……斎藤議員……」 笹本の言葉を繰り返すように口にした紫音の肩をまだ馴染む手がそっと撫でた。 「ここからは慎重に動かないといけない。しばらくは何の報告もできないかもしれないけど、諦めずに待ってて」 笹本を見上げながらうんと頷く紫音を笹本が掻き抱く。 「紫音……」

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