3 / 19
第2話
ナイトクラブのドアが開いて、黒い革ジャンを羽織ったケンジが出てきた。彼は、10代の澄やヒトシの先輩にあたる。2人はケンジに会釈をして挨拶した。
「澄、こないだ、ダブハンと相当やりあったらしいな」
澄は「あー、はい」と困ったように笑う。ダブハンとは、ビリヤードバー「ダブルハンド」に溜まっている若者たちを指している。先週、澄はかれらに絡まれて、ブチ切れてボコボコに殴りあったところだ。
「お前さあ、もうちょい気ぃつけろよ。警察に目ェつけられてんじゃないのか」
「わかんないっす」
「わかんねえって、お前さあ……」
そう言いかけて、ケンジは「澄はシラフのくせにジャンキーみたいな喧嘩やるからな」とため息をついた。
ヒトシも「澄、なんでお前、そんなやべえ喧嘩すんの? 」と呆れた顔で言った。
「っていうか、そのツラで喧嘩強いとか意味わかんねえな。どこで憶えたんだよ?」
「ツラは関係ねぇだろ。お化けと追っかけっこしてたら強くなったんだよ」
澄はまた「ははは」と笑った。
それは、あながち嘘ではなかった。先週の喧嘩も、単にかれらが絡んできたのではない。ダブハンの1人は、悪霊に取り憑かれているようだった。目的は澄を食べること。ボコボコにするまで殴らないとこっちがやられた。
でも、ヒトシやケンジにはそんなことは言えなかった。自分が喧嘩ジャンキーだと見せるしかなかった。
だが、この日のケンジは、澄の言った「お化け」という言葉に眉をひそめた。
「お化けってアレか、幽霊とか……」
真剣に聞かれて「ええ、まあ」とヘラヘラと笑ってやりすごそうとした。だが、ケンジが「それ、いいかもしんねえな」とつぶやく。
「いま、夜神 先生が助手を探してるらしい」
澄は「やがみせんせい?」と聞き返した。
ヒトシが「えっ、夜神先生の助手?! ケンジさん、それはヤバいやつじゃ」と青ざめる。
「詳しくは知らねえけど……夜神先生は、霊感のある奴を助手にしたいらしい。澄、お前、応募してみたらどうだ? 割りのいい仕事探してただろ?」
「ちょっ、ちょっと、ケンジさん、やめてくださいよ。夜神先生の仕事はゼッテーに受けるな、って、オレ、あっちこっちで言われてるんスよ」
澄は「誰っすか、夜神って?」と怪訝な顔で聞く。ヒトシが「知らねえのか」と眉をひそめた。
「夜神先生ってのは、霊能探偵だ。幽霊とか退治できるらしい。たまにオレらに、人探しや情報集めの仕事が来るけど、金払いは最高にいい。だけど、深入りすると……助手になったやつは、もう3人は消えたらしい……」
「消えたって? 」
「行方不明。帰ってこなかったんだよ。生きてるかも死んでるかもわかんねえ」
ともだちにシェアしよう!