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第2話

ナイトクラブのドアが開いて、黒い革ジャンを羽織ったケンジが出てきた。彼は、10代の澄やヒトシの先輩にあたる。2人はケンジに会釈をして挨拶した。 「澄、こないだ、ダブハンと相当やりあったらしいな」 澄は「あー、はい」と困ったように笑う。ダブハンとは、ビリヤードバー「ダブルハンド」に溜まっている若者たちを指している。先週、澄はかれらに絡まれて、ブチ切れてボコボコに殴りあったところだ。 「お前さあ、もうちょい気ぃつけろよ。警察に目ェつけられてんじゃないのか」 「わかんないっす」 「わかんねえって、お前さあ……」 そう言いかけて、ケンジは「澄はシラフのくせにジャンキーみたいな喧嘩やるからな」とため息をついた。 ヒトシも「澄、なんでお前、そんなやべえ喧嘩すんの? 」と呆れた顔で言った。 「っていうか、そのツラで喧嘩強いとか意味わかんねえな。どこで憶えたんだよ?」 「ツラは関係ねぇだろ。お化けと追っかけっこしてたら強くなったんだよ」 澄はまた「ははは」と笑った。 それは、あながち嘘ではなかった。先週の喧嘩も、単にかれらが絡んできたのではない。ダブハンの1人は、悪霊に取り憑かれているようだった。目的は澄を食べること。ボコボコにするまで殴らないとこっちがやられた。 でも、ヒトシやケンジにはそんなことは言えなかった。自分が喧嘩ジャンキーだと見せるしかなかった。 だが、この日のケンジは、澄の言った「お化け」という言葉に眉をひそめた。 「お化けってアレか、幽霊とか……」 真剣に聞かれて「ええ、まあ」とヘラヘラと笑ってやりすごそうとした。だが、ケンジが「それ、いいかもしんねえな」とつぶやく。 「いま、夜神(やがみ)先生が助手を探してるらしい」 澄は「やがみせんせい?」と聞き返した。 ヒトシが「えっ、夜神先生の助手?! ケンジさん、それはヤバいやつじゃ」と青ざめる。 「詳しくは知らねえけど……夜神先生は、霊感のある奴を助手にしたいらしい。澄、お前、応募してみたらどうだ? 割りのいい仕事探してただろ?」 「ちょっ、ちょっと、ケンジさん、やめてくださいよ。夜神先生の仕事はゼッテーに受けるな、って、オレ、あっちこっちで言われてるんスよ」 澄は「誰っすか、夜神って?」と怪訝な顔で聞く。ヒトシが「知らねえのか」と眉をひそめた。 「夜神先生ってのは、霊能探偵だ。幽霊とか退治できるらしい。たまにオレらに、人探しや情報集めの仕事が来るけど、金払いは最高にいい。だけど、深入りすると……助手になったやつは、もう3人は消えたらしい……」 「消えたって? 」 「行方不明。帰ってこなかったんだよ。生きてるかも死んでるかもわかんねえ」

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