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第10話
一晩寝ると熱はずいぶんと下がった。澄が起きてきた頃には、雁は出かけていた。瑠衣も保育園に通っているらしく、部屋には嶌川だけが残っていた。
「約束しましたからね」
彼は笑みを浮かべて、アンセルフィッシュについて説明してくれた。
嶌川によれば、アンセルフィッシュの活動が始まったのは15年以上前らしい。当時は夜の街にいくつもの分かれたチームがあり、抗争が耐えなかったらい。それを仲裁し、和平を結ばせたのがアンセルフィッシュの先代リーダーだと言う。
「私も雁も当時のことはよく知らない。若い頃は私たちは、アンセルフィッシュの名前だけは知ってたけど、活動実態は知らなかった。ちょうど、いまの君みたいな状況だね」
そう笑いかけられて、澄は「知らねーよ」とボソリと言う。
雁はとある抗争の仲裁で、中心的な役割を果たしてアンセルフィッシュのメンバーの信頼を得ていく。そのなかで、チームの「組織化」を行った。実力のあるメンバーには役職をつけ、地区ごとに支部を作り、それを統括する「本部」の役員をつけた。
「正直に言えば、雁は調子に乗ってたね。そのとき、弟さんが、いつもとは違う事件に巻き込まれた」
「それは……化け物が出てくるような……」
「ああ、そうなのかな。私は幽霊や妖怪には縁がなくて。弟さんは私にもよく話してくれたんだけどね。ピンと来なくて。彼は夜神先生に心酔していて、探偵事務所に出入りするようになった」
澄は眉根を寄せて「あのオッサンのところか」とつぶやく。
「そう。夜神先生はわざわざ雁さんを探し出して忠告しに来てくれてね。弟さんを、怪しい世界にのめり込ませないように。でも、あの頃の雁さんは、霊なんてバカバカしいと言って、まともに耳を貸さなかった」
嶌川によれば、雁の弟は危険な人物 に接近し、そのまま事件に巻き込まれて、行方不明になったらしい。夜神によれば、「生存は期待しないほうがいい」とのことだった。それ以来、雁は「ゴーストバスターズ」を作りたいと考えるようになったのだと言う。
「雁は、弟さんと同じように若い人たちが、アヤカシの手によって害されるのを防ぎたいと思っているんです。そのためのプロジェクトに、君は採用された。とっておきの人材です」
「重い話だな。オレ、そんなの向いてねーよ」
「霊能力があるだけで十分なんです。雁の夢に付き合ってくれませんか?」
微笑んで言う嶌川に、「アンタはゴーストバスターズなんて信じてねーんだな」と尋ねる。
「どうでしょう。私には見えないものは見えないし、聞こえないものは聞こえない。私は凡人です。でも、逆に言えば目に見えて耳に聞こえることはわかる。つまり、雁が弟さんの死に傷つき、今も引きずっていることはわかるんです」
「雁さんのトラウマ供養のために、アンタは信じてる振りをするのか?」
「雁さんは私の恩人ですから。雁さんが夜神先生にかしずくように、私も雁さんにかしずく」
澄は「全然わかんねー」とつぶやいた。
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