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第2話
澄は鼻で笑って「意味わかんねぇ」と言いかけると、夜神の表情がサッと変わった。
「客人だな。お前、今日、誰かをここに呼んだか?」
「は? 帰りは嶌川さんが迎えに来るって言ってたけど?」
「いや、あの狐じゃないな」
夜神が顎の下に手を置いて「まあ、術師って訳でもなさそうか」とつぶやいた。澄は怪訝な顔で「何の話だよ?」と尋ねる。
「このビルは全体に俺の結界が張ってある。ここの住人以外が入ってきたら、すぐに検知できるようにな。セキュリティシステムみたいなもんだ」
夜神の説明によれば、ビル全体に既に強い結界が張ってあり、アヤカシたちは侵入できない。入口にはセンサーのような罠がしかけてあり、知らない人物が入ってくると、すぐに夜神にはわかるようになっているという。
「だから、ここは化け物もいないし、変な空気なのか。清潔すぎて気味悪ぃよ」
「お前はアッチの世界の奴らに毒されすぎてんだ。早く清浄な空気に慣れろ」
そう言いながら、夜神は髭をいじって「で、誰が来るんだろうな」と低い声でつぶやく。
廊下でチンというエレベーターの到着する音がする。澄は思わずドアを見つめてしまった。
コツコツ
事務所のドアをノックする音が響く。夜神は「どうぞ」と声をかける。
ノブがまわり、ガチャリと音がする。
「すみません、夜神探偵事務所って……」
そこには、ジーンズにパーカー姿の若い女性が立っていた。薄化粧だが、唇だけが妙に赤い。大学生ぐらいだろうか。
「ウチだけど。仕事の依頼か? アポ無し飛び込みは珍しいな」
夜神が低い声で言うと彼女は「あっ、予約とか、しなきゃいけなかった……?」と慌てたように言う。髭面の目つきの悪い男に怯んでいるようだった。
「いや、今日時間も空いてるから。そこの椅子、どうぞ」
ぶっきらぼうに彼に言われ、女性は薄汚れた来客用ソファを一目見て「うっ」と一瞬止まった後、黙ってそのまま座った。
「で、どこでウチを知った? 紹介か?」
「あ、友だちから聞いて。アンセルフィッシュていうチームがあって、そこの人がお化けの話なら、ここだって言ってて……」
「へえ。化け物関係の相談か」
彼女はコクリと頷いた。緊張した様子で赤い唇をペロリと舐める。
「澄、そこのポットでお茶用意しろ。コーヒーでいいか?」
澄は弾かれたように、「わかった」と掠れた声で答えると、埃まみれのポットをふきんでざっと拭き、湯を入れて沸かし始める。自分が緊張しているのがわかる。
「本当にここは探偵事務所だったのか。化け物関係ってどういうことだ……?」
突然の依頼人の登場に、頭の中でぐるぐると疑問がまわっていた。彼女はボソボソともう話し始めているようで、夜神は頷きながら聞いている。そして、こう言った。
「つまり、あんたの彼氏は化け物に食われる寸前ってわけか」
澄の心臓はドキッと高鳴った。
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