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第3話

何食わぬ顔で紙コップにインスタントコーヒーをいれ、女性に差し出す。彼女は川城(かわしろ)と名乗った。 「彼のこと、助けられますか? お祓いとか……」 彼女はコーヒーを手に持って、上目遣いに夜神を見る。黒い液体に波が立ち、彼女が震えているとわかる。 「彼氏の写真があったら、見せて欲しいんだけど」 彼女はすぐにコーヒーをテーブル置くと、スマホを撮り出して写真フォルダを開いた。 「友だちが、夜神先生のところに行くなら、写真撮ってかなきゃダメだって言ってて、昨日の夜、撮りました」 夜神は「へえ、それ正解だ」と頷いて、差し出されたスマホをを受け取った。澄が気になってチラリと見ると、「お前も見るか?」と渡してくれた。 写真には横たわって眠る男が写っていた。伸びっぱなしの無精髭にシミのある白いタンクトップ。眉間に皺を寄せている……の上に、明らかに化け物が抱きつき、のしかかっている。 「餓鬼に憑かれてるな」 夜神がボソリと言う。餓鬼と呼ばれたアヤカシは、澄も何度も見たことがある。緑色の肌をしていて、やせ細った手足に、腹だけが大きく膨らんでいる。夜の街に潜み、人間に取り憑いて生気を吸おうとする。 だが、澄の知る限り、餓鬼は凶悪な妖怪ではない。寄生先になるような人間を見つけると、少し生気を吸い取っては、その周囲をぶらぶらしている。こんなふうに、相手から生気を搾り取ろうとしているのは初めて見た。 「こいつ、なんでここまで、この人の彼氏に執着してるんだ?」 澄がつぶやくと、夜神は「おっ、いいカンしてるな」とニヤリと笑った。川城が不安そうに「ガキって、なんですか?」と口を挟む。 「餓鬼ってのは、腹を空かせて亡くなった人たちの怨念が形になったものだ。特定の人間をターゲットにして、取り殺すようなことはほとんどない」 「じゃあ、彼は今はそのガキに取り憑かれてても、殺されることはないんですか?」 「いや、この写真を見る限り、彼氏はこのままいつ殺されてもおかしくねぇな」 川城の顔が真っ青になって「助けて、くれますよね?」と縋るように言う。 「餓鬼にこんなに恨まれるってことは、一方的に生気吸われただけじゃねえだろうな。川城サン、君、俺にまだ言ってない情報あるよね?」 「えっ…えっ、情報……? なんだろう、それ……」 狼狽する川城を見て、夜神は「君もそこんとこ、知らずに巻き込まれてるのかな」と顎の当たりをさわる。そして、ニヤリと笑い、こちらを見た。 「澄、お前の見立てはどうだ?」

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