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第4話
「え、オレ……」
澄が戸惑って夜神に何か言い返そうとするが、じっとこちらを見る川城の顔を見ると「えーと」と口ごもってしまう。
「この写真、変なことが2つある。1つ目は、このオッサンが言ったように、化け物が川城さんの彼氏に執着してること。なんもしてないのに、この化け物に、こんなふうに付きまとわれるのは変だ」
川城は不安げに「もしかして、彼氏は化け物に呪われてるんですか?」と尋ねる。
「ほら、怪談とかでよくあるじゃないですか。知らないうちに祠 を壊しちゃったりして」
「んん、そういうんじゃなくて……うーん、川城さんの彼氏、この化け物になんかしたんじゃねぇかなあ……偶然とかじゃなくて……」
川城が強ばって「わざと……化け物に……」と言うと、押し黙ってしまった。
「もう1つの変なこと。この化け物、川城さんには興味がなさすぎる」
夜神が「そこだよなあ」と相槌を打った。
「餓鬼って妖怪は、腹を空かして人間の生気を食いたがってるんだ。それなのに、アンタには全く興味がない」
川城はますます引きつった顔で「私も食べられるかもしれないってことですか?!」と掠れた声で聞く。澄は「ていうか……」と言いよどみつつ、続けた。
「川城さんのほうが、美味そうだからさ……。なんで、彼氏ばっかり食うのかわかんねぇ」
「同意だな。彼氏はまずそうだ」
2人のコメントに、川城は「わたし……」と顔が真っ青になってしまった。夜神は「脅しちゃって、悪いな」と苦笑する。
「化け物どもは意外とグルメなんだよ。美味そうな魂を探して食べようとする。川城さんの彼氏は、言っちゃ悪いが、湿気た煎餅 とか、気の抜けたサイダーと、そっちのたぐいだな」
「美味い、不味い、って……そんな……」
「もっと言ってしまえば、化け物にとって人間の味は魂の質で決まる。例えば、この澄はキラキラ輝いてて、どんなグルメの化け物でもイチコロの、最高の食材だ」
「オレは関係ないだろ!」
澄は言い返すが、川城はその言葉も耳に入らないようで、「じゃあ、不味いっていうのは魂が……」と顔をくもらせた。夜神はサラリと言う。
「アンタの彼氏、ヤバいことやってんだと思うよ。 魂が濁ってるし、餓鬼に取り憑かれてるし。ふつうに起きることじゃない」
「そんな……私は……」
「川城さん、俺が結論として言えることは、この彼氏にもう関わらない方がいいってことだな。別れた方がいい」
川城は呆然として「そんな……」とつぶやく。
「わたし、彼氏のことを助けて欲しくて……」
「やめた方がいい。この男、もう堕 ちてるよ」
夜神は淡々とそう告げた。澄は「うっ」と息を詰めてそれを見ていた。
「堕ちる」という意味はわかる。化け物たちの世界に取り込まれて、そっちに持っていかれること。魂を……早晩、彼は正気を失い、下手すれば心の臓も止まるだろう。
男が餓鬼に何をしたのかわからないが、「手遅れ」だというのが、夜神の見立てだった。
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