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第5話
川城はショックのあまり、心あらずというようだった。それでも相談料を払おうと金額を尋ねてきたりしたので、しっかりしたお嬢さんなのだろう。
夜神は「こっちからの依頼拒否だから気にしなくていい」と彼女を家に帰した。澄は、そのあとも事務所でぼんやりと考え込んでしまう。
「川城さん、彼氏と別れんのかな?」
「どうだろうな。化け物が取り憑かれてるのが理由で、別れ話すんのも大変そうだな」
夜神は唇を歪めて「ま、彼氏サンがまだ正気だったらの話だけど」とつぶやく。
「なあ、あの彼氏って、もともと化け物が見える体質でもないだろ? なんで、そんなアイツらに干渉してんの?」
澄が気になっていたことを聞くと、夜神は「闇屋に引っかけられたんだろ」とサラッと言った。
「この街じゃ、ちょくちょくある。例えば、借金がかさんで、利息も払えねぇような奴に、闇屋から声がかかるんだよ。そいつらの言いなりになってると、いつの間にか、餓鬼の餌にされちまう」
「なんだよ、そんな闇屋なんて、オレ、聞いたことない」
「お前みたいに魂がキラキラした奴に、闇屋が寄ってくるわけねぇだろ。闇屋が引っ張るのは、魂の腐りかけた奴。川城さんの彼氏みたいにな」
澄は「彼氏がクソみたいな奴だってことか」とため息をつく。
「なんで、あの子、そんなヤバい男と付き合ってんだよ。フツーっぽかったのに。意味わかんねえ」
「惚れたんだろ」
夜神の言葉に、澄はしばらく沈黙し、「へえ」と眉根を寄せた。
「なんだよ、惚れたハレタに理屈はねえもんだろ」
「オレ、そーゆーのわかんねえから」
そう言うと、夜神から目を逸らした。そして、彼女が残していったコーヒーのカップを片付ける。
夜神が「教えてやろうか?」と唐突に言う。
「惚れたりハレタり、俺とやってみるか?」
ニヤリと笑った髭面を見て「バカじゃねえの」と肩をすくめる。
「そうかあ~? 澄が、俺に惚れてメロメロになって、理屈に合わないことやるとこ見てみたいけどな」
「惚れようと思って惚れるもんじゃねーだろ。オレがアンタに惚れるってのは、想像もつかねえ」
「あれこれやってるうちに、気分が出てくるかもしんねーぞ。俺とアレしたりコレしたり……」
男がまたニヤッと笑うので、ため息をついた。
「そろそろ、嶌川さんに迎えに来てもらおうかな」
もうすっかり疲れてしまい、自分からそう告げた。夜神は「おうおう、そうしろ」と笑った。
そして真顔になって、言った。
「なあ、澄。川城さんに同情するなよ? 彼女がどうなろうと、お前には関係ねぇよ」
「同情なんてしてねーよ。いろいろ疑問があっただけだ」
「ならいい。相談者に同情したら死ぬ。それだけ覚えてろ」
その声は全く冗談を含んでおらず、澄は返事もできなかった。
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