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第3話
しのぶ君と水族館でデートしてからと言うもの、僕たちは頻繁に遊ぶようになった。大体しのぶくんから空いている日を聞かれて、予定を埋められる。この間は映画館、その前はショッピングモールへ買い物。まるで健全なカップルのようだなと、いつものルーティンに従って洗顔をしながらぼんやりと思った。(もしかすると友人同士でもそういった場所に行くことはあるのかもしれないが、高校からの唯一の友達である実には、コンビニやファミレス、ラーメン屋といったところへ呼び出されることがほとんどだし、最近は実と仲良くしている友人がいるようで、呼び出しの頻度も減っている)
しのぶ君は、出かける先々で僕が何が好むのかを教えてくれるのだった。僕が好きそうなものの存在を教えてくれるのではなく、僕が好きだと思っている事実を教えてくれるというのも側から見ると奇妙なことだなぁと思う。でも本当にしのぶ君は僕以上に僕のことがわかっているとしか思えない。彼のいう通り僕はパスタは一皿しか食べないけどラーメンはトッピングを注文するし時々替え玉だって頼むし。美味しく食べようとしている姿勢が現れているし、好きなものだから沢山食べられるんじゃないですか、と醤油ラーメンの大盛りを食べながら話していたしのぶ君は、僕の中ではホームズ顔負けの名探偵だった。
そんなしのぶ君は、最近必ず僕に選択の決定を委ねている。おそらく意図的に。以前は僕に選択肢を提示し、その上で僕が決めきれないでいると、どちらがより僕好みかを説明してくれた。だが今となってはそれもなく、早く決めろと突き放してくるようになった。それどころか、悩んだり迷ったりするのが苦手な僕が、どうにかこうにか結論を出して伝えても、本当にそれが僕の好みによる選択なのかを確認してくるまである。そこでしのぶ君が満足する回答出なければ、僕はまたまたうんうん唸りながら理由を探して答えるのだった。しのぶ君から出される試験問題の解答率はまだ5割にも満たさないので、しのぶ教授から単位をもらうのはまだ遠い未来になりそうだ。
珍しく今日はどこにいって何をするかを決めないまま、待ち合わせ場所である駅前のカフェに集まっていた。いつもは遅くとも前日には行く場所を決めてくれていたしのぶ君から、集合時間と場所の相談の連絡しかこなかった時点で、もしかしてそういうことだろうかと疑い初めてはいた。
「はじめさん、今日どこいきます?」
「え、ぼくが決めるんだ…」
今日の試験問題は今日の予定を決めるという、一日の評価を決めるのにはまあなんとも責任重大な一問だった。これは配点が大きそうだなぁと思いながらシトラスティーを一口飲み込んだ。出題者は悠々とホットのブラックコーヒーを味わっている。この反応は、特に意見を出したり口出しする気はありませんよということなんだろうな。
さてどうしたものか。ここ最近はずっとしのぶ君と遊んでいるし、近場の遊べる場所で行っていない場所はほぼ無いのだ。ここでその場しのぎな適当な回答をしてもおそらくしのぶ君は納得しないだろうし、正直八方塞がりの気分だ。手に持っているシトラスティーのカップを、視線だけで上から覗き込んでみても、微かに揺れる波紋は何も応えてくれない。それが与えてくれる温かさとは違って、随分と冷たく無慈悲だ。そんなバカなことを考えながら悩んでいたが、ふと以前しのぶ君と見た新作の映画のことを思いだした。
「じゃあ、僕の家にくる?」
「は?」
しのぶ君はコーヒーを飲む手を止め、形が良く細長い眉を吊りあげて僕の目を見た。後輩の中では珍しく常に冷静に振る舞うしのぶ君の瞳には、何言っているんだこの人と言いたげな僕の正気を疑う色が写り込んで見える。あれ、なんか思っていた反応とちょっと違う気がする。人の家にあがるのに抵抗があるタイプなのだろうか。
「はじめさんの家に、ですか?」
「そうそう。こないだ見た映画あったでしょ?しのぶ君が言う通りすごく面白かったし、シリーズの他の作品も見てみたくて。一緒にどうかなっていう。」
しのぶ君は神妙な顔をして、黙り込んでしまった。一体どうしたと言うんだろう。今回の解答もしのぶ君の満足いく解答では無かったのだろうか。いやでも遊びに行くところが思い浮かばなかったとはいえ、その映画を見たいという気持ちには嘘は無いし、興味があると言うのも本当だ。待ち合わせ場所から近いのは僕の家の方だし、人を呼べるほどには綺麗に保っている。遊ぶ場所に僕の家を選ぶ理由としては申し分ないはずだ。
「わかりました。お邪魔します。」
しばらく考え込むような様子を見せたしのぶ君は、そう返答すると残っていたコーヒーを全て飲み干した。よかった。今回の解答はお気に召したようだ。
「なんか食べるものとか買っていこうか。」
「はじめさん、配信サービスなにか入ってます?入ってなかったら俺のアカウントで見ましょう。」
「お言葉に甘えようかな。」
僕もしのぶ君に続いてシトラスティーを飲み干し、カフェをでた。新作の映画は本当に面白かったし、しのぶ君の解説はとてもわかりやすいので、きっと楽しい鑑賞会になるだろうな。
ーーー
「これって、本当に監督変わってるの?」
「変わってます。新作の方は演出とか新しい監督の色が入ってますけど、前作と違和感ないレベルでうまくまとめてましたよね。」
映画をみた感想を端的にまとめると、とても面白かった。夢中になって見入ってしまい、気づいたらそとはとっぷり日が暮れてしまっていた。しのぶ君はセンスが良いなあと思いつつ、途中から中身が減ることのなかったお茶を一気に煽った。水分を取ることを忘れてしまうくらいテレビから目を離すことができない時間だった。
「そういえば、はじめさんって配信サービス登録してないんですね。」
「う〜んそうだね。自分からあんまり見ることないから、入っても使わなさそうで…。」
「ああまあ、納得ですね。」
僕の横でベッドを背もたれがわりにして座っていたしのぶ君が、僕が一人暮らしを始めるときに奮発して買ったブルーレイレコーダーに近づいた。
「なんかみるときは、わざわざレンタルして見てるんですか?」
「そうだね、だいたい誰かに誘われたときだから、どこかで借りてそのままうちの家来てみたりするかな…」
「…これも、誰かと見たんですか?」
そう言ったしのぶ君の方へ目を向けると、しのぶ君の右手には、18才になってからでないと見ることができない、そういうDVDがあった。あ、出しっぱなしにしてたっけか。
「あぁそれね、こないだ実が持ってきたんだよね。」
ちょっと面白い映画見つけてきた。そんなテンションで実はどこで手に入れたんだか知らないそれを、僕の家に持ち込んだ。今彼女いないだろ?これでも見て寂しさ紛らわせろよ!そんな感じのことを言っていた気がする。そしてお酒も入っていた気がする。しのぶ君がレポートの文献を探すかのようにまじまじとパッケージを観察する。
「はじめさん、人妻好きなんですか?それも清楚系ロリ巨乳メガネ三つ編みMの…」
「いやあ、詰め込んでるな〜ってかんじの内容だよね」
しのぶ君はパッケージからディスクを取り出すと、テレビの近くの黒く四角い機器にそれを飲み込ませた。え?見るの?
「正直内容はどうでもいいんですよね。はじめさんも大して興味持ってないってのはわかってるんで」
「うん?」
じゃあなんで再生し始めてるの?
「はじめさんが、普段どんなふうにオナニーしてるのかは気になりますね」
画面の向こう側では、清楚系ロリ巨乳メガネ三つ編みMの人妻が、恥ずかしそうにブラウスのボタンを外し始めていた。
ーーー
「アッ、アッ、アッ、だめぇ…」
清楚系ロリ巨乳メガネの人妻が、男優の愛撫を受けて切なそうに甘い声をあげている。ベッドに背中を預けて床に座る僕は、下着ごとズボンを膝まで下げていた。しのぶ君は僕の斜め前で、僕の手によって扱かれている僕のそれを見つめている。サークルの同性の後輩に見られているという状況に緊張しているのか、僕のそれは僅かに硬さをおび、ゆるく立ち上がり始めているものの、普段よりも反応が悪かった。
「なかなかイキそうにないですね」
「あは、ごめんね…」
しのぶ君は、僕が自慰行為をしているところを眺めて楽しいのかな。ロリ巨乳(もうどんな要素が積み込まれていたのか覚えていない)の人妻は、快楽と罪悪感のはざまで揺れ動いているようだった。奥さん、もういいでしょ。だめ…あぁ…だめ…。芝居がかった男女のセリフを耳にしつつ右手を動かして僕のそれを刺激し続ける。僕の右手はだんだんと水っぽい音を出し始めていた。確かに気持ちいんだけど、決め手に欠けるというか、最後までするにはだいぶ時間がかかりそうだった。ちらりとしのぶ君に目をむけると、しのぶ君と目があった。しのぶ君はいつの間にか、観察対象を僕のそれから僕の顔に移していたようだった。
「はぁ、しのぶ君、もうよくないかな…ちょっと時間かかりそう…」
「…そうみたいですね」
僕の白旗宣言にそう返したしのぶ君が、僕との距離を詰める。肌が触れあいそうなほど近くまで来ると、僕のそれをおもむろに掴みだした。え?これは一体どういうこと?
「はじめさんひとりでやるのを待ってると、AV終わっちゃいそうなので、手伝ってあげますよ。」
そう言って笑った不敵に笑ったしのぶ君が、僕のそれからにじみ出ているカウパー液を指に含ませつつ、僕のそれを弄り始めた。思いもよらない展開に動揺しつつも僕はしっかりと与えられる快感を拾い上げており、びくびくと腰が震えてしまう。
「えっ!?しのぶ君!?」
「ほら、集中して」
「ぅあっ!」
耳元のすぐそばからしのぶ君の声がしたと思ったら、ぬるりとした感触があった。これ、もしかしなくてもしのぶ君に耳を舐められていないか?今自分の身に起きていることを整理しようとしているうちにもしのぶ君は僕の耳に息を吹きかけてきて、そのたびに僕の肩が跳ねる。
「はじめさん、耳弱いんですね。わかります?はじめさんの、すっかり硬くなって立ちあがってますよ。」
「う、はぁ、うぅ」
普段からサークルでも器用な後輩だとは思っていたけど、しのぶ君はこんなところでも器用らしい。裏筋の部分を親指を動かして的確な刺激を与えてきたり、やわやわと揉みこむように優しく触ってきたりして、僕にあらゆる気持ちいいを教えこませてくる。僕の息はすっかりあがって、顔が熱い。僕のそれはしのぶ君が言うようにガチガチに硬くなり、いまやてらてらと濡れそぼっている。くちくちと耳に入る音が、テレビから流れるAVの音なのか、僕のそれから出ている音なのか、僕にはわからなくなっていた。気持ちがいい。耳から伝わる快感も股間から伝わる快感も一緒くたになって僕の空っぽな脳みをぐつぐつと煮立たせている。
「しのぶ、くん、もう、やば」
「いつでもイっていいですよ」
「ぁ、あっ!あっ!」
しのぶ君の手が、僕のそれの先端を強く握って扱くペースを上げた。いつのまにか僕はしのぶ君の体にしがみついていて、もうしのぶ君から与えられる刺激に従順に啼くことしかできなかった。
「ィ、く…っ!!」
僕を翻弄するしのぶ君の手に追い詰められた僕は特に抵抗もなく、射精した。体を流れる血液が力強く血管を脈打っていて、ばくばくと心臓が忙しなく動いているのを感じる。ふとテレビに目をやるとAVも盛り上がっている場面だったらしく、男優の激しい責めに人妻が大きい喘ぎ声をあげていた。快感の余韻に呆けた思考の片隅で、きっと、あの女優よりも気持ちの良い思いをしただろうな、とどうでもよいことを考えていた。
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