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第14話

「なあ……本気ですんの?」 「おーよ。だいたいこのうちに客用布団なんかねーからな」 「嘘だっ! 布団ならさっき押し入れにびっしり入ってたじゃないか」  いつものように一組敷いて、持ち上げた布団の中に誘うと、リョータは滑稽なほど狼狽えた。  だが風呂に入ってもよくならない顔色と、部屋に戻って置きっぱなしになっていたシャツを目の前にすると小刻みに身体が震えるリョータを放っておくわけにはいかない。 「あれはじいちゃんが置いてったの。何年も使ってないから虫干ししないと、きっとカビ臭いぞ」 「えー」 「心配しなくても、お前みたいなお子様になんもしねーから。ほらっ、はやく」  数回の押し問答の末、やっとリョータが布団に入ってくる。背を向けられるかと思ったが、意外にもリョータは相向かいで横になった。例のシャツはスーパーのレジ袋に突っ込み、階下に放り投げてきたことを告げると、ほっと表情が和らいだ。何があったかの記憶はなくても、禍々しさは容易には消えないようだ。  薄い肌掛けの下で、遠慮がちな身体がさらに縮こまる。シオリはリョータの腰下に手を回し、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。 「なっ…………シオリさん」 「ちょっと心配なだけ。お前が寝たら放してやるから」  腕枕の上でリョータが身を捩ったが、藻掻くほど密着が深まると学習したのか、やがておとなしくなった。そうこうするうち、わずかな震えはいつのまにか止んでいる。 「はい……じゃあ、おやすみなさい」 「ん、おやすみ」  早鐘のような鼓動がしばらく続いていたが、ふたりの体温がなじむ頃、呼吸が規則的になった。結局離すタイミングを見計らっていたシオリも、リョータを抱きしめたまま寝落ちしてしまった。  翌朝は「ひっ」という悲鳴を飲み込んだようなリョータの声で目が覚めた。 「ん……おはよ」 「な、ななななんで」 「ん? お前、朝の挨拶は?」 「お、おはようございます…………シオリさんっ! なんで俺」 「ああ……これね。抱っこするのはお前が眠るまでって思ってたのに、そのまま寝ちまった。でもあったかくて安心しただろ?」 「あっ……ついですよ」  リョータが暴れたくらいではシオリの身体はびくともしないが、リョータはパニック寸前だ。あまりの必死さにさすがに気の毒になって、シオリは腕をほどいてやった。 「ぷはーっ……なんて朝だよ」 「最高の目覚めだろ?」 「はあっ? そんなわけねえし。まあ……でもありがとうございます。なんかすっごい怖い気持ちがなくなったのは、その…………シオリさんのおかげかと」  昨晩に比べたら顔色も格段によくなっている。これなら安心して学校にも行けそうだ。 「朝ご飯作ってやるから、着替えたら下に降りてこいよ」  ハムエッグとキャベツ、ご飯に味海苔と味噌汁。ハムエッグ以外は店の定食と変わらないメニューだがリョータは朝からよく食べた。ここまで食欲があるならもう心配ないだろう。 「気をつけて行ってこいよー!」  シオリの声援をガン無視しながらも、こっそりと幾度か振り返りながら制服姿のリョータが去って行くと、どこからともなくゴロウがやってきた。

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