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第28話

 心に浮かんだ呼び名にはっとする。  リョータはずっと、すべての意味で最愛の兄だった。  その仲を引き裂かれても、同じ時代に生まれ変わりながら出会えなかった時があっても、ずっと。  忘れたことはなかったはずなのに。  これでは「なにも知らないくせに」と責められたって仕方ないはずだ。 「ごめん…………一目見て気付かないなんて、ほんとごめん」 「ううん」 「ずっと、あいたかった。兄さん」 「俺もあいたかった……本当に永かった……でね」 「うん?」 「このままだと疼くばっかりで辛い……もっと銀を感じさせて……あっ」  リョータもかつての呼び名でシオリを呼ぶ。その声でむくりと大きさを戻したあとは、もう止まらなかった。 「ん……どうした?」  気付けば、リョータの胸にどっかりと頭を預けていた。その下でもぞりと身体を動かし、言いづらそうに口を開く。 「ちょっとだけ……その……」  こんな大男が全体重をかけてもたれているから、苦しかったのだろう。だが、はっきり言わないところがまたかわいくて目尻が下がってしまう。 「わりい、重かっただろ……お前といると、なんか俺、時々甘えたくなる。……おかしいよな」  小柄だし、年だって相当下のリョータはシオリにとってかわいい存在なのに、時折すべてを委ねてしまいたくなる自分がいる。  だが、頭をあげようとすると、リョータはシオリの頭部をぎゅっと抱きしめた。 「おかしく……ないです。俺もシオリさんがかわいくて、甘えてほしいときがあります……」  生意気なこと言ってすみません。と小さな声が聞こえるとたまらない気持ちになり、体勢を入れ替えてリョータを抱き込んだ。リョータは急な動きに驚いた様子だったが、腕の中に収まるとふっと安心したように息を吐いて、胸に顔を埋めてくる。  再び中心に血が集まると、リョータの腰が引けた。笑ってしまったのは開き直ってからの自分の節操の無さと、本気でおびえているリョータが面白かったから。 「ムスコはコントロール不能だけど、もうしねーから」 「……はい」 「キスだけ、してもいいか?」 「ん……」  ことが終わっても離したくなかった。いつまでも腕の中に囲っていたくなる。 「これからは俺んちにいろ。どうせ親は帰ってこねえんだろ?」 「でも……」 「なんだかもう、離れていたくねーんだ。俺が寂しいから。な、頼むよ」  かつての兄は弟に甘えられると断れないことをよく知っている。シオリも少しずつ金角銀角の関係性を肌で思い出していた。  優しくて、でもちゃんと一本芯の通ったまっすぐな兄。  自分が好きにならなければ、天界を追われるようなことにはならなかったのだろうか。ふたりは禁忌を犯したけれど、たきつけたのは自分だという自覚がありありと感じられる。  それなのにシオリは銀角時代の記憶がほとんどなく、金角であったリョータのほうがシオリを求めた。その意味はまだわからないけれど。

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