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第30話

 ゴロウは追加で作ったタマゴサンドを平らげると、思いのほか素早く帰ってしまった。  その後、連れ立って買い物に行く。前にアパートへ入ったときから思っていたが、リョータは驚くほど物を持っていない。生活をするのにはシオリが今持っているもので十分なので主に身の回りの物を見にゆく。 「下着に……これはパジャマがわりになるんじゃないか? どうした?」 「ほんとにいいんですか?」  なかなかすべてを任せる気になれないらしい。  かつていつものムキムキ男子ではなく毛色を変えてかわいい系の子を抱いた。たった一度、それも互いに遊び割りきっていたつもりなのに事後は彼氏ヅラ、おごりは当たり前みたいになって辟易したことがある。  むしろリョータにはいろいろ買ってやりたいのに、欲しいものを言わないから困ってしまう。とりあえず数着を無理やりかごに詰め込み会計を済ませる。 「沢山、すみませんでした」 「すみませんじゃないだろ、俺がやりたくてやってるんだから」 「ありがとうございます……」 「よろしい。あとはおしゃれしたかったら、自分のバイト代で買えよ」 「はい」 「あ、でも由悟んトコはなしな」 「わかってます。値段高いですもんね」  そうではない。そうではないのだがそこを詳しく説明するのシオリの器が小さいアピールになってしまうだけなので、ここは勘違いさせたままにすることにした。 「あ……」 「リョータ! おはよう」  リョータがふと立ち止まった。噂をすればなんとやらで、前方から由悟が歩いてくる。リョータをみつけてあからさまにうれしそうだ。 「これから出勤か?」 「うるせー、お前に用はない」  初めいつもの飄々とした顔でリョータに声をかけてきたが、みるみるうちにその表情はこわばってゆく。 「お前ら…………まさか?」 「ん? なんだよ」 「………………またかよ。またダメなのかよ」 「由悟?」  シオリのことは完全無視でブツブツとつぶやく由悟を訝しく思ったが、横でリョータが不安そうにシオリの袖を引いた。 「なんだったんだ、あいつ」  由悟が去って重苦しい雰囲気がなくなり、やっと口を開くことができた。リョータの手前普通を装っていたが、去り際由悟が見せた憤怒の表情が目に焼き付いている。以前からいけ好かない奴だったが、あんなに黒いオーラを纏う男だっただろうか。 「とりあえず帰って昼飯にするぞ」 「はい」 「あれ? じいちゃんに出したタマゴサンドの残りは?」 「あ、さっき食べちゃいました」 「……もうすぐ昼飯って言っただろ?」 「全然食べられます」  トイレに行って手を洗い戻ると、朝しまい忘れた皿が空になっていた。朝食をあれだけ食べたのにと、変わらないリョータにほっとする。 「くくっ…………すげーな」 「なんですか?」 「ううん、なんでもない。頼もしいわ」  とりあえず食事だけでも、リョータがシオリに遠慮せずにいられることがあるなら、この先だってきっと大丈夫だろう。

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