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失ったあとに気づく

鉄砲玉……使い捨ての人員     一度打った鉄砲玉は返ってこない ーーーーー 「「「お疲れさまです、若!」」」 「……」 ザッザッザッ…… 「……ふー、やっぱいつ見ても若の前だと緊張すんな」 「あの人しゃべんねーし余計に怖いんだよな、眼圧だけで十人倒したとか言われるぐらいだしな」 「それが冗談だろって言えねーところがいっちゃんこえーよな」 ……全部聞こえてんだよ、ダボが ガシガシと首をかく アイツらは最近入ってきた奴らか 俺はいいとしても親父の耳に入ったら指詰めるどころか首が飛ぶってもんだ ……あいつらは鉄砲玉だ 明日もいるかはわからねぇ そんなやつの言葉なんて聞く必要もねぇ いつものことだ、気にする必要もねぇ 「あー! 若おかえりなさい! 今日も不機嫌そうな顔してますね!」 「てめぇはいつでもうるせえし若に対する言葉遣いじゃねーだろ」 「安心してください! 若のこと悪く言ってたやつは後でおれがしめとくんで! ほらほら若笑ってください、眉間にシワ寄っちゃいますよ」 グイグイと無理やり俺の口角を上げて笑わせようとしてくる こいつも鉄砲玉だっていうのになぜか俺に馴れ馴れしい 普通なら俺に話しかけることもできないのに隙きを見つけては俺に話しかけてくる 「若、昨日も人参残してたでしょ ちゃんと食べなきゃだめですよー」 「てめぇは俺のカーチャンか」 「そんなんじゃないですー 若が好き嫌いするのがだめなんですよ あ、あと靴下裏返して出すのやめてくださいよ、めんどくさいんですから」 「あーあーあー、うるせえな てめぇはこんなところで油売ってねえでさっさと持ち場に戻れ 俺としゃべってんとこ見つかったらてめぇが言われんぞ」 しっしっと虫を払うようにしてアイツを追い返す アイツはケラケラ笑い、おちゃらけながら離れていく 「あーそうだ若! おれ、明日龍島組んとこ行くんで居ないんすけどちゃんと飯は食ってくださいよ! 人参もちゃんと食べてくださいねー!」 大きく手を振りながら去っていくアイツを見送り歩き出す 「……うっせぇな」 「おめえら何やってんだ! 手ぇ空いてるやつ、けが人運べ!」 「親父、すんません! 龍島組の奴らチャカぶっ放してきやがって…… 虎徹がやられました!」 「いい、いい、おめえが無事で良かった 先に怪我の手当しとけ」 帰ってきた奴らを見回す 血を流すやつ、ボロボロ泣くやつ、倒れ込んでいるやつ…… 「……おい」 「は、はい! 若なんでしょう!」 「若ぇのはどうした 金髪の若ぇやつは」 「……虎徹、っすね あいつは一番にやられて、連れ帰るのも難しく……」 「……そうか」 目を閉じ、少ししてその場を去る バタバタと走り回る男どもの足音や女の高い声 どこからか泣き叫ぶ声も聞こえてくる 『若!』 ふいと振り返ってもアイツはいない 今にでもひょいっと出てきて小言を言いそうな気がするのに 空を見上げつぶやく 「……静かだな」

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