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 途端にカイは跳ねるように動いて肘を自分の頭の上に回し、両手で後頭部を探って、懸命に動かし始めた。  針金をほどこうとしているのだ。しかし皮の手袋のせいで指が使えないうえ、両手首をぴったりと固定されているためにうまく動かせないようで、今度は手を顔の前に持って行き、口の周りの針金を取ろうともがいている。 「やめろ、けがをするぞ。」  斎東は困ったような声でいって、ほとんどほどけてしまったカイの腰帯を手繰り寄せると、また床の間の柱とカイの腕とを固定し始めた。  カイは、あらわになった足で斎東を蹴ろうとしたが、すぐに斎東の手が反応して、簡単に捕らえられてしまう。 「折るぞ?」  怖いことをいう。  斎東は腰帯の余った部分で、器用にカイの目まで覆って縛ってしまった。カイはついに観念したのか、そこでやっと暴れるのをやめて静かになった。  息は荒く、胸が激しく上下している。飼犬のしつけみたいだ、と思った。  カイの顔をのぞきこむと、斎東が見やすいように口をこじ開けてこちらに見せてくれた。  平たい金属がカイの舌を押さえている。(くるわ)で女郎がそそうをしたとき、折檻するために使われるものなのだそうだ。 「これで舌は咬めない。」  まあ、そうだろう。だが、「カイは自害する気なんてないぞ」 と、一応いってみる。 「そうか。なら、死ぬ気がなくなるまでこのままにしておく。」  無茶苦茶だが、斎東はそういうやつだ。  を、を、斎東は許さないのだから。  口から手を離し、首筋を、胸を撫でているうちに、斎東はもよおしてきたらしい。自分の着物を脱ぎ始めた。  カイを見たまま、「いっしょにやるか?」 と私を誘ってくる。 「手を出すな、じゃなかったのか。」 「お前ならいいことにした。」  なんだそれは。  とはいえ、私は昼間に充分楽しんだ。 「私は止めておこう。」 「そうか。」  斎東は、手かせのせいで脱がせなくなったカイの白い浴衣を力任せに引き裂き始めた。昼間の情事のあとカイに着せ替えた、ところどころにキキョウの花が描かれている真新しい浴衣。それも斎東からの贈り物だが、惜しくはないのか。 (馬鹿力め。カイがおびえるだろ。)  そう思ってなにげにカイを見ると、カイが私のほうに向かって何か声を上げているのに気付いた。目は見えていないが、私の気配を必死に探っているらしい。斎東に浴衣を破られながら、すがるように、なにかを訴えようとしている。  私には死ぬ気などない、斎東にいって、やめさせてくれ、というところだろう。  私はカイの味方などではない。だいたい、報いや償いのためだけに生きるというカイは、すでに死んでいるのも同然ではないのか。いい機会なので、ここはひとつ、命乞いをしたくなるほど斎東になぶられるといい。  そういえば、斎東の首にまたあの革紐があるのが見えた。あの小さな巾着に入っていたものは、確か…ちいさな容器だ。その中身はなんだったろうか。あまりいいものではなかったような。斎東が浴衣を裂くたびに、体の動きに合わせて揺れている。  カイはまだ必死な様子でこちらを伺っていて、カイの希望とは裏腹に、あらわになっていく白い肌。 …それを見ていて、なんだか私は、だんだんと気が変わってきた。  今日は、かわいいカイの様子を間近で見るのがいいかもしれない。 「…やっぱり私も混ざろうか。」  斎東が、おっ、という顔をして振り向く。  かわいそうに、私にかばってもらえると僅かな望みを抱いていたらしいカイは、固まってしまった。目を覆われていて表情が伺えないのが残念だ。さぞかし絶望していることだろう。  それを思うと、頭のなかに、盗んだ水飴を密かに舐めているような、背徳的な高揚感が広がる。  カイはついに丸裸にされ、布団のうえに転がされた。  自分の着物を屏風の下に落とすと、斎東が横目で「お前先にしろよ」 という。「おれは(かわや)で手を洗って来る。」  そうか。カイに咬まれたんだったな。でも、 「待っててやるよ。お前のほうが充分()ってるだろ。」 と、からかうようにいってやる。 「じゃあ、お前のも勃たせてもらえよ。カイに。」  斎東がもっとからかうように、にやにやしていう。力なく横たわっていたカイがおびえたように小さく動いた。 「…冗談だろう。咬まれたくない。」 「おれが押さえといてやるから。」 「ふっ。一番信用できんな。だいたいカイは舌が動かせないだろう。」  斎東はくすくす笑って立ったままの私に向き直り、私の着物をはぐると同時に付け根を太い指でまさぐってきた。  褌から取り出すと躊躇もなく咥えこみ、舌を絡み付けてくる。  斎東の長くざらざらした舌が、私のそれを刺激する。慣れた手つきで奥の谷間を探られる。  斎東にを受けるのは実に久しぶりだが、斎東は私の急所をよく覚えていて、油断すると声を上げそうになる。  なにげなくカイのほうを見ると、細かく震えているのがわかった。泣いているのだ。腰帯のせいで涙は見えない。  こわいからではないだろう。くやしくて泣いているのだ。怒っているのかもしれない。  この現状が、自分の思っていたものとあまりにかけ離れていることに対する憤り。 …それを考えるとたまらなくなった。 「は…斎東、もう充分だ。」  声をあげそうになり、思わず腰に当てられていた斎東の右手を握ると、ぬるっとする。血だった。敷布にも血が落ちている。 「…ひどそうだな。」  そういうと斎東も気づいて自分の手を見、「全然」といった。「骨まではいってない。」  私のそれを確認して、に、と笑うと、斎東は、包帯代わりに下に落ちていたカイの着物の白い切れ端を何枚か持って立ち上がり、裸のままさっさと厠へ行ってしまった。  カイを激しく陵辱したくなった私は、カイのもとへ行き、その反応を楽しむために、ひざまずいて、まずは小声でわざとらしくいってみる。 「…何を泣いておられるのですか、加佐井さま。…私たちが、あなたの贖罪のお手伝いをしてさしあげようというのに。」 --------------------→つづく

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