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雷と雨音
カイは今度こそ間違いなく怒って、体を起こせないまま右足で蹴ろうとしてきた。
(またお行儀の悪い。)
その足を捕まえてそのまま引き離し、カイを裏返す。 腿のあたりを両手で持ち上げ足を広げる。
カイは何かわめいているが、かまわず腰をつかんで引き寄せようとした。
そのとき、急に後ろから手が伸び、私のそれを握ってきた。
いつの間にか後ろに斎東がいた。カイの様子を楽しむあまり気がつかなかった。
「これがいるだろ?」
片手で飴油を塗りこんでくる。確かに昼間はカイの体が頑なで、なかなか潜り込ませることができなかったのだ。こうばしいような、それでいてまろやかな飴油の香りがする。
斎東がわざわざ珍しく気を利かす、と思ったら、そうではなかった。
「!」
斎東が私に向かって攻めて来たのだ。
しまった、と思った。最初からこのつもりで私を誘ったのだ。
斎東の足が割り込んできて、私の足も簡単に広げられてしまった。抵抗する間もなく開始されてしまう。斎東のものにも飴油が塗られているのらしい。
「く…」
肉を割って先端が潜り込んでくる。と、一気に突き上げられ、脳天を打ち抜かれたかのような衝撃が全身を貫く。
そこをさらに抉るように、ずぶっ、ずぶっと緩急をつけて攻め込まれる。
このままではまずい。とっさにカイの腰から右手を離し、後ろに上げて、斎東の頭の後ろにまわした。斎東が了解したように私の代わりにカイの腰を右手で持ち直す。斎東の右手には着物の切れ端が巻かれていて、ちょうど滑り止めになっている。
腰を持つ手が変わったので、カイは斎東が来ていることをそこでようやく察したらしく、振り向こうと頭をふった。どうせ見えてはいないのに。
力の加減が変わったせいか、それとも恐怖からなのか、カイはまた逃げようと暴れ出す。
斎東は左手も伸ばし、カイの腰を両手でつかんだ。一気にこちらに引き寄せながら、斎東は、包帯のついた右手でカイの腰をつかんだまま、左手をいったん腰から離して私のものに添えると、私の挿入まで手伝い始めた。
飴油でてらてらとした私のそれをさすりながら、斎東が満足そうな息を漏らすのを耳の後ろで聞く。腰を進められ、先端を割れたカイのひだに沿って強くこすりつけられると息が震えた。
斎東は片手でカイの腰を易々と引き上げ、ひだの奥にあるカイの蕾を剥き出しにする。私の先端を掴んだままで左手の人差指を伸ばすと、そこを確認するように軽く指を入れた。カイのせつなそうな声がもれる。
指を添えられるようにして、先端が蕾へと誘 われる。
「そら…」
「……っ」
斎東の腰が私の腰を押し出し、さらに斎東の右手がカイの腰を引き寄せる。
――ずぶ …
「――が…ッ あ…!」
カイがくぐもった悲鳴をあげる。さるぐつわのせいだ。
先端がカイの体に飲み込まれていく。いや、斎東が無理やり飲ませている。
昼間の情事のときよりもずっと反発が強く、緊張のせいなのか熱が高いせいなのか、そこは溶けるように熱い。引き締められたそのなかへ、てらてらと濡れた私の芯が、斎東の腰に押されるがままに徐々に飲み込まれていくのだ。
「う、あ…」
私も声をあげそうになり、ついに左手のほうもカイの腰から離して、斎東の頭の後ろで右手指と組んだ。後ろ向きで斎東に貼りつくような格好になる。耳元で斎東の愉快そうな囁き声がした。
「…お前、おれに後ろからされるとき、いつもその体勢になるよな。」
だまれ、でかぶつめ。こっちは必死なのだ。
斎東にやられるときは、この体勢のほうが後がつらくないことを経験則で知っている。
斎東がカイの腰をどんどんこちらへ引き寄せるたび、カイから悲鳴が聞こえてくる。
くそ。悲鳴をあげたいのはこっちだ。自分の調子で攻めているわけではないから、下半身への刺激が半端ではない。しかも斎東のものも容赦なく奥へと進んでくる。肩に斎東の吐息がかかる。斎東は、カイの腰を動かし始めた。
「…く!よせ…」
また失敗した。
斎東が嬉しそうに息を吐いた。調子をとりながら、少しずつカイの腰の動きを荒くしてくる。
「…――斎東…――!」
こいつ。
斎東の駄目なところは、一度その人間の弱点がわかると、執拗にそこばかりを攻撃してくるところだ。
カイの悲鳴にも似たあえぎ声は大きくなり、カイが声をあげるたびに結合したそこが締め付けられる。
斎東のあの香の匂いがする。
そういえば昔、この匂いは大嫌いだったことを思い出した。
のけぞると、背中に何かがあたってくる。
きっと斎東の、首から下がった例の巾着。
「…ああぁ…! …ぁく…ッん…!」
熱いのは、カイの体か、斎東なのか。
外からはどしゃ降りの雨の音。
雷の音も近い。
この状況は、いったいいつまで続くのか――
「…――っ!」
斎東の腰が震え、私の中に蜜を吐き出す。
自分の声が頭のなかに反響していやだった。
斎東は荒く息をしながら、ようやくカイを私から解放した。
じわじわと私のものを吐き出させると、先端が抜き出た瞬間、カイの後孔から白い液がこぼれ出る。自分の意志ではなかったが、すでに私もカイの中に何度か流し込んでいた。
布団のうえのカイは震えながら小刻みに呼吸している。
斎東も腰を引きながら、私の腰を持ち上げるようにしてゆっくりと出ていき 、それから、緩やかな動きで私の腕を首から外した。
口で息をしながら自分の手を見下ろす。ほどくと、指先は血が止まって白くなっていた。
斎東は大きく息を吐きながら、「ひさしぶりだったろ」 といってきた。かっとなり、しびれてきた右腕を大きく後ろに振った。
「おおっと」
こぶしを斎東の手に制されたので、指をひろげて思い切りつかんでやる。
「いぃて!咬まれたほうそっち!」 「二度とするな!」
斎東と声がかぶった。
斎東はちょっとびっくりした顔を作って見せて、それから吹き出し、「わかった、ごめんな」と悪びれることもなくいった。
舌打ちして、自分の着物を取りに立つ。腰は大丈夫そうだ。
ついでに煙草盆をとって火鉢から炭を入れ、壁の、ちょうど飾り窓の下に座った。
これで定位置、というわけだ。どうせあの程度で満足できる斎東ではない。斎東が不思議そうに見るので、煙草の準備をしながら、ぶっきらぼうに
「やれよ。見といてやるから。」
というと、斎東はにやっと笑い、カイに向かっていった。
煙草に火を入れながら、油断してしまった自分に腹が立ってきた。最近は、求められてもうまくまるめこんで無理やり帰していたのに。
この油断はカイのせいだ。
斎東はカイを後ろ向きに這わせて攻め始めた。
ろうそくより明るい洋灯の灯りで、斎東の背中や腰の筋肉が激しく動いている様子までよく見えた。
「あ…!…あ、あっ…!…」
カイのせつなそうな声が籠ったまま部屋に響いている。私の流し込んだ体液のせいか、斎東がカイの肉孔を穿つたび、繋がったそこからは生々しくも艶めいた音が絶え間なく聞こえていた。
斎東はカイを抱えるようにして起こし、荒く息を吐きながら、カイの耳元で
「カイ、お前、簡単に死ねると思うなよ。」
「お前はもう、おれのものなんだからな。」
などといっている。
…手の自由も、言葉も、視力さえも奪われて、唯一機能を果たす耳へと届けられるその声は、カイのなかで、どのように響いているのだろう。
斎東はそのままカイを左腕で支え、右手で激しくカイの足の付け根のそれを刺激し始める。カイは苦しそうにのけぞり、びくびくと体を震わせた。
----------------------→つづく
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