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第1話(2)
しかし、男はなかなか首を縦には振らない。
仕方ない。
「ご成約……頂けませんか…?」
これ以上ないほど儚げに瞳を潤ませ男を見つめる。
ウッと男は唸ると、観念したのか大きくため息を吐きながら首を縦に振り、俺の方を照れたように見る。
「わかった、契約しよう。あー、ただその代わりと言ったらなんだが……」
ああ、と俺はすぐに何が言いたいのか気づいた。
「そんな回りくどいこと言わなくて結構ですよ。俺、今フリーなんで。契約くれたらいつでも誘ってくれていいですよ♡」
俺はすぐにベッドの横に置いておいた契約書と印鑑を男に差し出す。
「やれやれ、営業なんだか、枕なんだか分からないな。」
俺は印を押された契約書を受け取る。
ご成約一丁!!!!!!
何度も言うが、今ではとてもとても充実したセックスライフ、もとい、立派な(枕)営業マンライフを過ごしている。
「今日のことはくれぐれも他言無用でお願いします。あくまで、ウチの商品を気に入っていただけたということで。連絡先は先ほどお渡しした名刺の裏に書いてますので」
念の為部屋を出る前に営業先の男に釘を刺しておく。
「猫目海斗くんね…覚えたよ。」
「今後ともよろしくお願いします。では失礼します。」
猫目海斗(ねこめかいと)は俺の名前だ。ベッドで行為をしていた時とは違い営業スマイルに切り替えた俺はさっさと挨拶をして会社を出る。
俺はしがないエロ玩具メーカーに勤める営業マンだが、エロ玩具メーカーのくせに枕はタブーだ。まあ、こんなことしてるのは俺だけかもしれないが。
「でも俺が枕しちゃった方が契約取れるし〜俺ゲイだし〜後腐れないし〜てか相手いね〜し〜、そんな俺が男漁って何が悪いんだっつ〜〜の〜〜」
俺がこんなにもやさぐれ出したのにも訳がある。
「いやいや、会社でやっちゃダメだろ普通に。オープンすぎたんだよお前。クビになんのも当然だよな〜」
酒を飲んでいる俺の横で何やらソシャゲをぽちぽちしながら俺の愚痴を聞いている男は俺と同じくゲイ仲間の受川だ。
お互いネコだからか、気が合い良き友人としてよくバーで酒を酌み交わしている。
「だからって営業成績良かった俺をあっさりクビにしやがって!!!!バカバカバカ!!」
子供のように駄々をこねながらジョッキの生ビールを豪快に煽る。
俺はあの後会社に戻ってから部長に呼び出され、取引先の一つからとある動画を送られてきていたと、部長は俺に動画を見せる。
その動画には俺と取引相手が淫らに乳繰り合ってる様子が映っていた。
――その後のことはよく覚えていないが、ざっくりまとめて言うとその日のうちに俺は会社をクビになったのだ。
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