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-After Film- 9.乞い乞われ(R)

 ベッドの傍、三脚の上に乗せられたカメラは、止まることなく二人の情事を撮影し続けている。 「ぁ、ぁっ、あっ⋯⋯、んっ」  射精のあと、くたくたの体を組み敷かれてすぐさま始まった後背位。今度は胸をシーツに付けて四つん這いになって、高い位置に突き出した尻を揉まれながらグレンのものを受け入れている。  腰のくびれを掴まれて、ぐりぐりと回すように後ろから挿入されるといつもよりも深いところに先端が当たって気持ちいい。腹の中にはまだグレンの精液が残っていて、突かれるたびにぬるぬると纏わりつくような感覚が内部に広がっていく。戸惑いと快感に震える体は、それでもグレンとセックスをしているという歓びには抗えなくて。 「グレン⋯⋯、」  グレンの唇が恋しいと思った直後、背中に柔い感触が降った。ちゅ、ちゅ、と肌を滑るように、唇が背中を這い上ってくる。そうして上体を折り曲げたグレンの胸が背中にぴたりと合わさって、ふたたび熱い肌を寄せ合う。  シーツに顔を埋ずめながらのろのろと首を横に向けると、好きな男の甘く焦げ付く匂いがした。 「ん?キス?」  そうやって甘く囁いて、優しく唇を掬い上げるグレンの舌遣いに体がほどける。ぢゅ、と吸われて、とろとろと唾液を分け合うようなキスに酔いしれていると、背後から伸ばされた手に胸全体を柔く揉まれて、思わずびくんと腰を突き上げた。 「ん、んぅ⋯⋯、」  吸い付く唇に舌を捧げていると、胸を弄る指先は乳首を探り当てて、両方ともくにくにと捏ねられて。結合部がきゅうんと締まると同時、内部の熱がまた大きくなったのを感じた。 「可愛い⋯⋯リオ、乳首いじるといつもきゅんきゅん締まる⋯⋯わざと?」 「んぅぅ⋯⋯、わざとじゃない⋯⋯はずかしいよぉ⋯⋯」 「いまさら恥ずかしがってんのも可愛いよ」 「ぅ、ぁっ⋯⋯!」  いつもと違うところに当たるのが慣れなくて、不意に腕を立てるとそのまま上半身を抱えるように引き上げられた。挿入されたまま後ろからぎゅっと抱かれて、膝立ちの形になってしまう。 「はっ⋯⋯、ぁっ」  目線の先にはカメラのレンズが、リオの裸体を真っ正面から捉えていた。咄嗟に顔を伏せると、後ろから骨張った指先に顎を持たれて。   「ほら、リオ。ちゃんとカメラ目線しなきゃだろ?」 「ん、んぅ⋯⋯、はぁっ⋯⋯」  強引にカメラの方に顔を向かされると、赤いランプが小刻みに点滅して、やがてシャッターが落ちた。  そうしてすぐにまた点灯するランプ。  撮られている。  息を乱して感じ入っているところを。  後ろから抱き締められ、緩やかに突かれるたびに肌がじわりと赤く染まるところを。  胸元を這うしなやかな指先に乳首をすり潰されて、肩を震わせて啼いているところを。  そうされるたびに快感の液を零すペニスが、体の中心でぷるぷると跳ねているところを。  背後から自分を抱く男の裸体と共に。  この瞬間を、写真に撮られているのだ。 「あとで一緒に見ような?」 「んっ、ぅ、ん⋯⋯あぁっ」  言うなり首筋にねっとりと舌を這わせて、悪戯に肌をなぞるグレンの鬼畜さに目眩がした。  セックスを撮影するのは初めてではないけれど、あくまでもリオの体を写すことがメインだったし、シャッターを押される時はグレンの右手が塞がっていた。  こんなふうに二人で交わっているところを撮られ続けることは初めてで、少しだけ落ち着かない。まるで第三者がそこにいるような感覚だ。  第三者に、このセックスを覗かれているみたいで――興奮してしまう。  ぱちゅぱちゅと肉がぶつかる音、甘ったるく漏れる自分の声、耳元にかかるグレンの荒い息。  すべて見られている。覗かれている。  錯覚するほどに赤いランプの点滅のスピードが速くなり、リオの性感を煽るシャッター音が部屋に響く。 「ぁっ⋯⋯ぁあっ⋯⋯グレン⋯⋯っ」  ふたたび極まっていく快感を予感して、グレンの腿に後ろ手を添えて上体を支えた。張り詰めた筋肉の感触に体格差を実感して、こんなところでも胸をときめかせてしまう自分の恋心に驚く。  余裕のないリオの喘ぎに絶頂を察したのか、グレンの腰がいっそう速くなる。片方の手で乳首を摘まれながら、下腹で勃起したペニスの先端を握られた刹那、熱を溜めた精嚢がきゅうーっと収縮して。鋭い射精感が下腹を襲った。 「んぁっ⋯⋯!はぁっ⋯⋯!」  射精をねだるペニスはびくんと反り返っているのに、グレンの手が離れていってしまう。すぐそばまで押し上げられている絶頂があと少しのところで溢れ出なくて、自ら腰を揺らしてグレンのペニスを内部に擦り当てる。そうすると後ろから耳に舌を入れられて、両方の指で左右の乳首をかりかりと引っ掻かれて、ぎりぎりで堰き止められた快楽の波が一気に越流する。 「ぁぁっ⋯⋯、あぁあっ⋯⋯!」  触れられていないペニスから白い飛沫が迸って、喉仏を反らせて喘ぎ泣いた。そうする間も内部のペニスに前立腺をひっきりなしに擦られ、こりこりの乳首を高速で扱かれ続けて、快楽に快楽を塗り重ねられてゆく。 「はぁ、っ⋯⋯、んんっ⋯⋯、も、だめ⋯⋯、」  体から力が抜けたとき、グレンの両腕に後ろから優しく抱き締められながらふたたびシーツに胸をつけるような形で寝かされた。もう何度目かわからない絶頂の感覚が体内に染み渡って、「ん、ん」と小さく啼きながらシーツを握りしめる。腹の奥は精液と先走りでぱんぱんになっているのに、腸壁で感じるグレンの熱は滾りに滾っていて、このセックスがまだ終わりではないことを知らせている。  そっと、腰を持たれたのが律動の合図だ。衝撃に備えてシーツをぐっと掴むと、中からずるずると引き抜かれていく感覚に肩が震えた。 「ぁ、ぁあっ⋯⋯」  絶頂続きで敏感になった穴の縁の粘膜が、グレンのペニスを離すまいと内側に誘い込むように蠕動している。ぎりぎりのところまで抜かれたかと思うと一気に奥深くまで沈められて、痺れるような快感に星が飛んだ。 「は、ぁっ⋯⋯、ぁあっ⋯⋯!」  びゅくびゅくと収縮する内壁を擦り上げられ、リオの好きなポイントもしっかりと掠めながら腰を穿たれる。たっぷりといたぶられた乳首は快感の余韻にじくじくと疼いて、何度も精液を吐き出したペニスはどういうわけか未だに硬いまま、白濁に混ざってさらなる快感の腺液を零している。  時に上から降ってくる熱く篭った吐息にグレンの快感を察して、この体で彼をもてなしていることに幸福を感じて。容赦無く激しく抽挿されているのに、背後に胸を重ねてきたグレンの唇はリオの唇を優しく甘やかすから、どこもかしこもグレンでいっぱいになる脳と体が、甘い甘い快感で埋め尽くされていく。 「リオ⋯⋯出すぞ⋯⋯」  吐息に混じる掠れた声がしたと同時、どく、と内部が波打つ。深いところにとくとくと注がれている感覚に、二回続けて中出しされたのだということを知った。 「ぁ、ぁ⋯⋯っ、ぁつい⋯⋯っ」  こんなこと、今まで一度もしたことがない。こんな、本能のままのセックス。中出ししたあとに続けざまにまた中出しするなんて。結合部は精液と腸液で泡立ち、溢れた汁がリオの白い腿を伝い落ちてゆく。 「⋯⋯ぐれ⋯⋯ん⋯⋯ぅ⋯⋯っ」  キスがしたくて呼ぶと、吐精した熱いペニスを引き抜かれ、体をころんと反転させられた。ぼやける視界いっぱいに浮かぶ男の体は熱く火照り、そのほどけた黒い長髪がさらりとリオの頬にかかった。  そうしてゆっくりと近付いてくる芸術的な造形の顔立ちにうっとりとして、与えられる柔らかな唇の感触を待つ。 「ん、っ⋯⋯ん、」  甘い息が鼻から抜けてゆく。舌根からねっとりと吸い上げられると唾液がじゅわりと溢れて、支配的な深いキスに体がとろける。グレンの黒い髪がリオの頭をすっぽりと覆って、まるで檻の中に閉じ込められてしまったみたいで。 「ん、ぁっ⋯⋯、んぅ⋯⋯」  絶頂の余韻の甘いキスは、十日間の寂しさを次第に忘れさせた。  深く絡まる舌から零れてゆく唾液さえ惜しくて、とろとろになってグレンを見上げる。そうすると、愛おしげに見下ろしてくる灰色の瞳に、グレンの真意が見えた気がして、息を飲んだ。 「なぁ、リオ⋯⋯」  快感にとろけゆく視界の中、グレンがシーツの上から何やら手繰り寄せたものを目前に差し出された。それは見覚えのある、色のついた瓶。 「もう一回⋯⋯いいか?」

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