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第2話
「ここ、結構気に入ってるのにな……また来られるかな?」
「どうでしょうね。命綱が、初めてお目にかかった頃より随分と細く見えますけど」
「えっ、うそでしょ? ここに来るのは楽しいけど、まだ死にたくないよー」
慌てたタツキが店を去ると、手つかずの飲み物を片付けに行く。
これはフローズンドリンクといって様々なフレーバーがあり、近年下界で流行っているそうだ。
バックヤードに戻り、不二夫はストローを咥えた。口に含んでみたが味はせず、砂を飲んだような気がするだけ。
「……だめだよ、不二夫」
白に頭を叩かれる。結構な高さから腕を振り下ろされたはずのに、少し風が起こるだけで手応えがない。当然痛くもない。
「すみません」
「禁止というわけではないが、面白くもないだろう」
「そうですね……」
「それにしても言うようになったじゃないか。命綱だって? そんなもの、この店では見えないはずなのに」
それでもあの慌てぶりからすると、タツキも自覚があったはず。だから当たらずとも遠からずなんだろう。このところ頻繁に来すぎていたから。
あの綱は案外脆い。切れてしまったらそれは、死を意味する。けれどそんなこともドアベルの音に振り向いた瞬間、忘れてしまった。
いつもそう。前にも同じようなことがあったのに、忘れたことすら忘れる有り様。
ここに来てから、あらゆる実感がまるでない。温度や感触、味も。
すべてが、夢の中みたいにふわふわしている。
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